宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
第一部 宵の恋、紅に染まる袖
平安の御世、彰雅帝(しょうがてい)が玉座に即かれたばかりの頃のこと。
御年わずか二十と五、若く聡明な帝にはまだ正妻も女御も持たず、後宮は静かにして広すぎる空間だった。
帝位継承の儀が終わると、宮中ではさっそく、大臣たちが自家の娘たちを帝に勧め始めた。
左大臣家、右大臣家、中納言に至るまで、どの家も誇る姫君を粧し込み、「いかがでございますか」と差し出した。
だが帝は、誰にも微笑まず、誰の名も口にしなかった。
「朕の心が動いたときに、入内を決めよう。」
そう静かに告げると、以後、どの姫を見せられても首を縦には振らなかった。
その態度に、朝廷の重臣たちは焦りを隠せず、御簾の奥では女房たちが囁いた――「帝は何をお望みなのか」と。
だが、帝の心にまだ誰も触れていなかった。
ただ、風のように流れる月夜の中、その目は、まだ見ぬ“誰か”を探していた。
御年わずか二十と五、若く聡明な帝にはまだ正妻も女御も持たず、後宮は静かにして広すぎる空間だった。
帝位継承の儀が終わると、宮中ではさっそく、大臣たちが自家の娘たちを帝に勧め始めた。
左大臣家、右大臣家、中納言に至るまで、どの家も誇る姫君を粧し込み、「いかがでございますか」と差し出した。
だが帝は、誰にも微笑まず、誰の名も口にしなかった。
「朕の心が動いたときに、入内を決めよう。」
そう静かに告げると、以後、どの姫を見せられても首を縦には振らなかった。
その態度に、朝廷の重臣たちは焦りを隠せず、御簾の奥では女房たちが囁いた――「帝は何をお望みなのか」と。
だが、帝の心にまだ誰も触れていなかった。
ただ、風のように流れる月夜の中、その目は、まだ見ぬ“誰か”を探していた。
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