宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―

第三部 深夜の手招き、揺れる帝

それから、再び帝の綾子への深い寵愛の日々が戻ってきた。

「綾子、そなたに新しい打掛を用意した。」

「えっ……」

思わず声を漏らす綾子。

本来、打掛は実家が用意するもの――

妃の品位は、家の格式によって整えられる。それが常だった。

だが、帝はそんなしきたりなど意に介さない。

「朕が、そなたに着せたいのだ。」

そのひと言で、綾子は何も言えなくなった。

しなやかな絹地に、春を描いた優美な意匠――

おそるおそる袖を通すと、帝の瞳が細められた。

「ああ、いいな。やはり綾子に似合う。」

また別の日には、

「綾子。屏風を取り寄せたぞ。」

そう言って、帝は嬉しそうに御簾を開けさせる。

そこには、異国の山水や仙女が描かれた、見事な唐渡りの屏風。

金をふんだんに使った、目が眩むほど高価なものだった。

「これも、そなたの部屋に置こう。」
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