先輩の添い寝係になりました

■第11話:本音

「今日はお疲れさま」

 無事撮影が終わり、打ち上げを楽しんだ後、ふたりは家に帰った。
 お風呂に入って後は寝るだけだ。
 瑞音(みずね)はちらっと(きょう)を見た。

(やっぱりあれから変だ……。なんで目を合わせてくれないんだろう……)

 打ち上げの時もそばにいてくれたが、どことなくよそよそしい感じだった。

(私、何か気に障ることしちゃったかな……)

「あの、別々に寝てみますか?」
「え?」

 響が目を見開く。

「なんで? 俺のこと嫌になった?」
「ち、違います! ほら、毎日気持ちよく眠れてるじゃないですか。私がいなくなっても大丈夫か、試してみたらって……」

「……出ていきたい?」
「いえ、いつまでも迷惑をかけられないから……」
「俺は迷惑じゃないけど」

 響がベッドに横たわる。
 ちゃんといつものように瑞音のスペースを()けてくれている。

(いいのかな……)

 迷いつつ、瑞音はベッドに横たわった。
 だが、響は寝る気配を見せず、目を開けたままだ。

「どうしたんですか、先輩……。撮影が終わってからずっと変ですよ……」

 響が突然ごろりと体勢を変え、向き合ってきた。
 かと思えば、すぐに視線をそらせた。

「……こんなの初めてなんだ」
「え?」
「いつもは役に入っている。俺個人の自我はない。なのに……今日の撮影できみを目の前にしたら……」
「……?」
「きみの頭に手を置いた瞬間、自分が出てきてしまった」

 そっと頭に手が置かれる。

瑞音(・・)ちゃん」
「……っ!!」

 初めて先輩が素の状態の時に名前を呼んでくれたことに気づき、瑞音はハッとした。

(いつも昼寝ちゃん、って呼んでたのに……)

 響は視線をそらさない。
 その真剣な眼差しにドキドキする。

「きみは……どこにも行かないよな?」

 その声は甘いというより、どこか切迫した響きがあった。

「俺のそばにいてくれ」
「それって……ドラマのセリフですよね?」

 なぜ再現するのかと戸惑う瑞音に、響がふっと微笑んだ。

「今のは演技じゃないよ。涼宮響の言葉」
「それって……」

 どぎまぎする瑞音に、響がフッと微笑む。
 少し意地悪い笑みだった。

「返事は?」
「はい……!」

 瑞音は思い切って口にした。

(私、先輩といられてとても楽しかった。いつも安心していられて……ずっと二人で暮らしていたいと思ってしまって……)

 響がくすっと笑う。

「今のはドラマの再現?」
「違います!」
「よかった……!」

 響がぎゅっと抱きしめてくる。

「あ、あのっ、先輩!?」
「響って呼んでよ、瑞音ちゃん。今日はこのまま寝させて」

 甘えるような声に、瑞音の心臓が早鐘のように打つ。

(これって……先輩も私のことを好きっていうこと?)

 瑞音はおそるおそる背中に手を回した。
 熱い引き締まった体を感じていると、響が静かに眠りに落ちていることに気づいた。

(……また明日話せばいい)

 瑞音はそっと響の耳元でささやいた。
「おやすみなさい、いい夢を……響」
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