【完結済】家族に愛されなかった私が、辺境の地で氷の軍神騎士団長に溺れるほど愛されています
書籍発売記念SS◆カードに込められた想い(※sideマクシム)
その日の朝、朝食を終えた俺は騎士団の詰め所に向かうため、玄関ホールへと向かった。
すると見送りに来たエディットが、何やらおずおずと差し出してきた。
「マクシム様、よかったらこれ、お持ちになってください」
「……? これは……?」
リネンの布で丁寧に包まれた編み籠。それは薄い藍色のリボンで結ばれ、まるで贈り物のように整えられている。
受け取ってみれば、ほのかにパンとハーブの香りが鼻先をかすめた。
「昼食にと思って……サンドイッチです。大したものではありませんが。最近特にお忙しそうなので、その……、私の手作りのものを、食べていただきたくて……」
そう言って、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。
(……どうしてエディットは、こんなに可愛いんだ?)
以前デヴィン王太子殿下がこのナヴァール邸を訪れた際、エディットは狩りに行く殿下と俺のために、こうして手ずから昼食を準備してくれた。その時に俺が喜んだことを覚えていたのだろう。また作ってくれるとは。
その健気さがいじらしく、朝っぱらから理性の糸が緩みそうになる。
「……朝からすまないな、エディット。ありがたく貰おう」
そう言って従者に籠を渡しエディットの頬をそっと撫でると、彼女はその頬をほんのりと染め、俺を見つめて微笑んだ。
今度こそ糸が切れそうな気がして、俺はそのまま足早に屋敷を出た。
そして午後。
黙々と執務を片付けている俺に、セレスタンが声をかけてきた。
「団長、もう昼ですよ。そろそろ食堂に行きますか」
「俺はいい。お前らだけ行ってこい」
執務室には今、俺の他に四人の部下がいる。俺の指示でそいつらが机の前から立ち上がり、休憩に入るために部屋を出て行く。
しかしセレスタンだけはなかなか動こうとはしない。椅子に座ったまま、こちらをじーっと見つめている。
「……何だ」
書類から顔を上げて軽く睨むと、セレスタンがにやりと笑った。
「ふふん。さては今日“愛妻ランチ”がありますね? 団長。顔に書いてあります」
(……なぜこいつはこんなに勘がいいんだ?)
完全なポーカーフェイスを作っているつもりでも、いつもこいつには見抜かれるから腹が立つ。
かといって動揺するのも癪なので、俺は何でもないようなふりをして淡々と答えた。
「だから何だ」
「俺の分はないんですか? 俺も食べたいなー、エディットさんの手作りの昼食」
「逆になぜお前の分があると思うんだ。馬鹿なことを言っていないでさっさと食堂へ行け。それとも休憩なしで夜まで働くか」
低い声でそう言うと、セレスタンはようやく部屋を出て行った。
「……」
一人になるやいなや、俺はエディットから手渡された編み籠を足元の引き出しから取り出し、机の上に置く。
籠を覆っているリネンの結び目を早速解くと、内側のリネンの上に小さなカードが載せられていた。
(……ん?)
二つ折りにされたその白いカードを手に取り、中を開く。
──離れている時でも、いつもあなたのことを想っています──
「…………っ!」
丁寧に記されたその柔らかい文字を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が襲い、体が固まった。
唇をグッと引き結んで堪えるが、あっという間に体中に滾るほどの熱が押し寄せる。
可愛い。もう尋常ではない。可愛すぎる。
(頼むから……これ以上俺を骨抜きにしないでくれ、エディット……)
全員追い出しておいてよかった。特にセレスタンの奴を。
こんな顔を見られたら、何と言ってからかわれるか分かったものじゃない。
動揺のあまり心臓が早鐘を打ち続ける中、俺は熱くなった顔を片手で覆い、深く息をついた。
動悸が少し治まってから、内側のリネンをそっとめくってみると、中には色とりどりのサンドイッチが綺麗に並んでいた。その隣には小さく切った数種類の果実が、丁寧に詰められている。執務をしながら片手でも食べやすいようにとの彼女の配慮が、手に取るように分かった。
(……今夜は絶対に早く帰るぞ)
サンドイッチを味わいながら、俺は己の心にそう誓ったのだった。
──────────────────────
※このSSに名前が出たデヴィン王太子殿下というのは、書籍の2巻に登場する人物です。王太子殿下がナヴァール辺境伯領に避暑に訪れ、マクシムとエディットがもてなすイベントがあります(*^^*)v
すると見送りに来たエディットが、何やらおずおずと差し出してきた。
「マクシム様、よかったらこれ、お持ちになってください」
「……? これは……?」
リネンの布で丁寧に包まれた編み籠。それは薄い藍色のリボンで結ばれ、まるで贈り物のように整えられている。
受け取ってみれば、ほのかにパンとハーブの香りが鼻先をかすめた。
「昼食にと思って……サンドイッチです。大したものではありませんが。最近特にお忙しそうなので、その……、私の手作りのものを、食べていただきたくて……」
そう言って、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。
(……どうしてエディットは、こんなに可愛いんだ?)
以前デヴィン王太子殿下がこのナヴァール邸を訪れた際、エディットは狩りに行く殿下と俺のために、こうして手ずから昼食を準備してくれた。その時に俺が喜んだことを覚えていたのだろう。また作ってくれるとは。
その健気さがいじらしく、朝っぱらから理性の糸が緩みそうになる。
「……朝からすまないな、エディット。ありがたく貰おう」
そう言って従者に籠を渡しエディットの頬をそっと撫でると、彼女はその頬をほんのりと染め、俺を見つめて微笑んだ。
今度こそ糸が切れそうな気がして、俺はそのまま足早に屋敷を出た。
そして午後。
黙々と執務を片付けている俺に、セレスタンが声をかけてきた。
「団長、もう昼ですよ。そろそろ食堂に行きますか」
「俺はいい。お前らだけ行ってこい」
執務室には今、俺の他に四人の部下がいる。俺の指示でそいつらが机の前から立ち上がり、休憩に入るために部屋を出て行く。
しかしセレスタンだけはなかなか動こうとはしない。椅子に座ったまま、こちらをじーっと見つめている。
「……何だ」
書類から顔を上げて軽く睨むと、セレスタンがにやりと笑った。
「ふふん。さては今日“愛妻ランチ”がありますね? 団長。顔に書いてあります」
(……なぜこいつはこんなに勘がいいんだ?)
完全なポーカーフェイスを作っているつもりでも、いつもこいつには見抜かれるから腹が立つ。
かといって動揺するのも癪なので、俺は何でもないようなふりをして淡々と答えた。
「だから何だ」
「俺の分はないんですか? 俺も食べたいなー、エディットさんの手作りの昼食」
「逆になぜお前の分があると思うんだ。馬鹿なことを言っていないでさっさと食堂へ行け。それとも休憩なしで夜まで働くか」
低い声でそう言うと、セレスタンはようやく部屋を出て行った。
「……」
一人になるやいなや、俺はエディットから手渡された編み籠を足元の引き出しから取り出し、机の上に置く。
籠を覆っているリネンの結び目を早速解くと、内側のリネンの上に小さなカードが載せられていた。
(……ん?)
二つ折りにされたその白いカードを手に取り、中を開く。
──離れている時でも、いつもあなたのことを想っています──
「…………っ!」
丁寧に記されたその柔らかい文字を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が襲い、体が固まった。
唇をグッと引き結んで堪えるが、あっという間に体中に滾るほどの熱が押し寄せる。
可愛い。もう尋常ではない。可愛すぎる。
(頼むから……これ以上俺を骨抜きにしないでくれ、エディット……)
全員追い出しておいてよかった。特にセレスタンの奴を。
こんな顔を見られたら、何と言ってからかわれるか分かったものじゃない。
動揺のあまり心臓が早鐘を打ち続ける中、俺は熱くなった顔を片手で覆い、深く息をついた。
動悸が少し治まってから、内側のリネンをそっとめくってみると、中には色とりどりのサンドイッチが綺麗に並んでいた。その隣には小さく切った数種類の果実が、丁寧に詰められている。執務をしながら片手でも食べやすいようにとの彼女の配慮が、手に取るように分かった。
(……今夜は絶対に早く帰るぞ)
サンドイッチを味わいながら、俺は己の心にそう誓ったのだった。
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※このSSに名前が出たデヴィン王太子殿下というのは、書籍の2巻に登場する人物です。王太子殿下がナヴァール辺境伯領に避暑に訪れ、マクシムとエディットがもてなすイベントがあります(*^^*)v