「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています

第六章 包み込むような愛

あの舞踏会から、カイル殿下はますます多忙になった。

妃を迎えること。それはつまり、“国”の未来を背負うということ。

文書に署名する姿や、側近に囲まれて歩く姿を、遠くから見かけることはあっても――

あの日のように私を見つめてくれる瞳は、もう私の方を向かない。

会いたい。

声が聞きたい。

でもそれは、我儘なのだろうか。

「セレナ様?」

ハッと我に返った。目の前には講師の厳しい眼差し。

教本のページは開かれたまま、私の手は、いつの間にか止まっていた。

「申し訳ありません……」

小さく頭を下げると、講師はため息をつきながら静かに言った。

「最近のセレナ様は、明らかに様子がおかしい。講義に集中できないということは、心がどこかにある証拠です。」

……それは、きっと、あの人の隣。

「この国の第二皇子妃として、ただ美しければ良いという時代は過ぎました。妃は、王子と国民を結ぶ象徴でもあるのです。もっと自覚を持ってください。」
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