魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第3話 森で出会った魔物

 森は、リュミが思ったよりずっと、暗くて冷たかった。
 足を踏み入れた瞬間から、空気が違う。

 昼間でも、頭上を覆う木々が日の光をほとんど遮ってしまい、地面に届くのは、細切れになった光のかけらだけ。
 それらの光は葉に揺れ、風に流され、まるで意志を持つように踊りながら、リュミの足元にはかない影を落とす。
 その光さえ、日が傾き始めるとたちまち色あせ、消えていく。

(どこまで来たんだろう……)

 そう思ったときには、帰り道すらわからなくなっていた。

 屋敷を出たときのことは覚えている。
 裏庭を通り抜け、古びた木製の柵を越えたときの感触もまだ足に残っている。

 けれど、そのあとの記憶は曖昧で、ぼんやりとしか思い出せない。
 気づけば、無意識に前へ前へと進んでいた。

(戻ったら……怒られるよね)

 戻るのも怖い。立ち止まるのも怖い。
 だから、前に歩くしかない。

「……さむい」

 リュミは肩を竦め、震える手で自分の腕を抱くようにしながら、ぎこちない足取りで木々の間を歩く。

 葉のざわめきが怖い。
 どこかで羽ばたいた虫の羽音が、やけに大きく響く。

 何度もつまずいて、服は泥だらけ。
 ここに来たのは失敗だった。そう思っても、もう遅い。

 ここがどこなのかもわからず、あとどれくらい歩けばいいのかもわからない。
 おなかは空っぽ。喉も乾いている。

 なにより、足が痛い。
 靴の中で皮膚が擦れて、ズキズキする。水ぶくれができているかもしれない。
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