魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第23話 もうひとりじゃない

 広場から村に戻ったころ、空はすっかり茜色に染まっていた。
 子どもたちは名残惜しそうに振り返りながらも、元気な声で「ありがとー!」と叫びつつ、それぞれの家に帰っていく。

 小さな足音と笑い声が遠ざかるにつれて、辺りは驚くほど静けさを取り戻していく。
 残ったのはリュミとリンコとパッロだけ。

「ふぅ……」

 思わず、ひとつ息を吐いた。
 肩の力がゆっくりと抜けていくのを感じる。
 夕焼けの風が頬を撫で、少し汗ばんだ額をやさしく冷やしてくれた。

 あの蝶が助けてくれなかったら、正直どうなっていたかわからない。
 考えれば考えるほど、ぞっとする。
 無事だったことが、不思議に思えるくらいだ。

「ったく。あんたって子は」

 リンコがツンとくちばしを上に向け、鋭い目つきでじろりとリュミを睨んでくる。
 その目には怒りと、隠しきれない心配の色がにじんでいた。

「また勝手に危ないことに突っ込んで……何回目だと思ってんのよ」

「ご、ごめん……」

 リュミが小さくうなだれると、すかさずパッロが横から口を挟む。

「結果オーライってやつだろ。蝶も助けに来てくれたしさ」

 ため息のような鼻息を漏らすパッロ。彼の目にも、疲れと安堵が混じっている。

 たしかに、今回は助かった。
 リュミもリンコもパッロも、そして子どもたちも、誰ひとり欠けることなく無事だった。
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