魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第24話 はじめてのスープ作り

 リュミはキッチンの中央で立ち尽くしながら、エプロンの端をきゅっと握りしめ、小さく息を()いた。

「えっと……お肉を切って、野菜を入れて、ぐつぐつ煮るんだよね」

 料理なんてしたことがないから、緊張する。
 心臓が緊張でドキドキしているのが、自分でもわかる。エプロンの生地にじんわりと汗がにじんでいるのも、その証拠だ。

 目の前のカッティングボード。そこに置かれた、大きな肉の塊。

(まずは……これを切らなくちゃ)

 ナイフをぎゅっと握り直して、リュミは真剣なまなざしで肉を見つめた。
 つるりとした表面。生々しい感触を想像すると、緊張が高まる。

(だいじょうぶ、だいじょうぶ……見よう見まねだけど、できるはず)

 今日、どうしてもスープを作りたかった。
 これはただの料理じゃない。エルドへの感謝の気持ちを、言葉ではなく形にして伝えたかったのだ。

 村の遊び場の件で、エルドにはずっと心配をかけてしまった。
 無理を言った日もあったし、黙って一人で抱え込んでしまったこともある。
 でも、そんな自分を追い出さず、これまで支えてくれた。
 今思えば、出会ってから今日までエルドにはお世話になりっぱなしだ。

 ありがとう。
 その一言がうまく伝えられない自分のかわりに、このスープに想いを込めたかった。

 だから、失敗なんてしていられない。
 今日は絶対に、頑張らなくちゃいけない日なのだ。

「リュミ、ちゃんとできるの?」

 うしろの椅子の背にとまっていたリンコが、くすっと笑いながら声をかけてきた。
 視線は同じくらいなのに、なぜか上から見下ろされているような感じがする。
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