魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第25話 森の奥にいるもの

「……話しておかなければならないことがある」

 唐突に切り出された言葉に、リュミは反射的に背筋を伸ばした。
 まるで、自分でも気づかないうちになにかに備えるように――そう、森の獣たちが気配に敏感に反応するのと同じように。

 部屋の空気がひやりと変わった。
 それは、リュミだけが感じたものではない。

 パッロは尻尾をぴんと立てたまま微動だにせず、静かながらも明確な警戒をあらわにしている。
 リンコは羽をぴたりと体に沿わせ、小さく首を竦めて、あらゆる音を聞き逃さないように集中していた。

 暖炉の炎が、ぱち、ぱち、と小さな音を立てる。
 穏やかだったはずの室内は、次第に重たい沈黙に包まれていく。

 エルドは立ったまま、しばらく沈黙していた。
 その顔は影に包まれ、感情の読めない仮面のように見える。
 やがて、エルドは静かに、ゆっくりと口を開いた。

「森の奥深くに……古龍がいる」

 エルドの一言で、世界が変わる。


 室内の空気が一瞬にして張り詰める。
 あたたかだったはずの炎のぬくもりすら、どこか遠くに引いてしまったような錯覚。
 重たい雷鳴が遠い山の向こうで静かに鳴り響いたような、そんな圧力が部屋全体を支配していく。

 リュミの心臓が、どくんと大きな音を立てて鳴った。

 古龍――それは、物語や伝承の中にしか存在しないとされていた、神話のような存在。
 人の知恵も力もはるかに超えた、古の神々と肩を並べる存在。
 想像もつかないほど巨大で、強く、そして……畏れられるもの。

「お、奥に……?」
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