魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第32話 ふわふわの力

 辺り一面がまばゆい光に包まれた。
 体がふわりと宙に浮かび、次の瞬間には、音も重さも感じない世界へと落ちていく。

 気づけば、そこは光の海だった。
 どこまでも広がる、淡くてやさしい金色の光。

 足元も空も境目がなくて、全部がキラキラしている。まるで太陽が溶けたみたいに。
 光の粒がゆっくりと舞いながら、リュミのまわりを漂う。

 風はなく、音もない。
 なのに、どうしてだろう。少しも怖くなかった。

 金色の光が、そっとリュミの頬に触れる。
 それはあたたかく、「おいで」とやさしく手を引いてくれるみたいだった。

「ここは……どこ?」

 リュミは目を擦った。
 だけど、指の先にはなにも触れない。あるのは、空気のような霧のような、ふわふわした感触だけ。

 足はどこにも着いていなかった。それでも、落ちる感じはしない。
 リュミはふんわりと、宙に浮いている。

(夢の中みたい……)

 それでも――怖くなかった。むしろ、心はあたたかい。胸の奥がじんわりと熱いくらい。
 どこかで昔、こういう場所を知っていたような……そんな気さえする。

「……ちいさきもの」

 その声は、空ではなく、心の中に落ちてきた。
 まるで、大地の底から湧き上がってくるような、深く響く声。
 風の音にも似ていて、やさしいのに、とても強い。

 リュミを、まっすぐ呼んでいた。
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