魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第33話 お家に帰ろう

「――リュミ!」

 その声に、リュミは振り返った。
 そこに立っていたのは、服が破れ、血に濡れたエルド。彼の体はひどく傷ついていたけれど、その瞳には、まだたしかな光が宿っている。

「おまえ……無事で、よかった」

 弱々しくもどこかホッとしたようなその声に、リュミの胸が一気に熱くなる。

「エルドさん……! ごめんなさい、リュミのせいで……!」

 涙があふれて止まらない。
 そのままエルドに駆け寄って、しがみつく。
 エルドは少し困ったように笑ってから、。そっと手を伸ばしてリュミの頭を撫でた。

「おまえのせいじゃない。それに……あの古龍の顔、最後は安らかだった」

 その言葉に、リュミの胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
 泣きながら、何度も何度も頷いた。

 ふと空を見上げると、金色の粒がふわふわと舞っていた。
 まるで、森全体が息を吐いているかのように、やさしい風が頬を撫でていく。
 その風の中に――たしかに、声が聞こえた気がした。

 『ありがとう』

 それは、たしかに古龍の声だった。
 リュミは胸に手を当てて、そっと心の中で返す。

(ううん。リュミのほうこそ、ありがとう)

 足元に目を落とすと、焦げた地面のひび割れがほんのわずかに揺れていた。
 地面の下で、なにかがゆっくりと動いている。
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