魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第35話 旅人から聞いた噂

 リュミはその日、森の奥にある小さな草地で、のんびりとピクニックを楽しんでいた。
 ムスティが編んでくれた布には、焼きたてのパンと色とりどりの果実、そして香り高い薬草のお茶が並んでいる。

 パッロは草の上に寝転び、青空を見上げながらのんびりと尻尾を揺らしている。
 リンコは近くの木の枝にとまり、羽根を膨らませて日向ぼっこ。
 ムスティは静かに糸を操りながら、リュミの肩にかけるためのショールを編んでいた。

 そして気づけば、森の獣や魔獣たちが、いつの間にかリュミのまわりに集まってきている。
 ウサギがリュミの膝にぴったり寄り添い、翅の透ける蝶の魔物が花の蜜をひとしずく舐める。奥からは、好奇心に満ちた獣たちが、そっと様子をうかがっていた。

「わぁ……」

 リュミの唇から、小さな驚きと喜びが漏れる。
 目を細めて微笑みながら、両手を胸の前でそっと組む。その姿はまるで、森の聖女のようだった。

 リュミはにっこり笑った。
 春の日差しの中、やわらかな風が頬を撫でる。

「おともだちが、こんなにいっぱい……! うれしいなぁ」

 その無邪気な声に、そばで見守っていたさんにんが、ふと表情を変える。

「……リュミって、みんなに好かれるよな」

 パッロが苦笑しながら、寝そべったままつぶやく。
 声はやさしく、けれどほんの少しだけ、寂しさがにじんでいる。

「むぅ……リュミは、わたしたちのリュミなのに」

 リンコはくるりと背を向けて、くちばしをぷいっと逸らす。
 その頬がほんのり赤いのを、誰も指摘しなかった。

「リュミ……こっちも見てよ」
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