魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第36話 招かれざる客人

 風がやわらかく森を抜け、木々はすっかり春の装いに包まれていた。
 若葉のにおいが辺りを満たし、こもれびが地面にキラキラとした模様を描いている。

 庭先では、リュミが鼻歌を歌いながら薬草の仕分けをしていた。
 カゴの中には、朝露をたっぷり含んだ新芽たち。リュミの指先は慣れた手つきで、丁寧に選り分けていく。

 その髪に、光の粒がふわりと落ちた。
 あたたかい春のにおいが風に乗り、くすぐるように頬を撫でていく。

 すぐそばの草の上では、パッロが気持ちよさそうに寝転んでいた。
 ふわふわの尻尾をゆったりと揺らしながら、彼は片目だけを開ける。

「今日はずいぶん調子がよさそうだな、リュミ」

「うん。森の空気がすっきりしてるからかな。吸い込むと、胸がふわっとするの」

「そうか……もう、瘴気のにおいはしないな」

 パッロの低く落ち着いた声は、春の日差しのように穏やかだった。
 その声に、上の枝にとまっていたリンコが、片羽をくちばしでつつきながら言う。

「リュミ、最近モテすぎじゃない?」

「えっ? モテ……?」

 思わず聞き返すリュミに、リンコはくちばしで枝をつつきながら、ぴしゃりと言った。

「見なさいよ、足元!」

 リュミが慌てて視線を下げると、そこには、ポコポコと小さな土の山がいくつもできていた。
 じっと見つめていると、土の中から小さな鼻が、次々と地面を突き破って顔を出してくる。

 現れたのは、モグラのような姿をした魔物たちだった。
 鋭い爪に、トゲトゲと逆立つ毛並み。ひと目で、瘴気をその身に抱えているとわかる。
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