魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第37話 神殿の影

 神官の提案を断った、次の日のこと。
 リュミたちの姿は、静かな村の中にあった。

「ちょっと確認したいことがある。すぐ戻る」

 エルドはそう言って、リュミの頭をそっと撫でた。
 その手のひらはあたたかくて、やさしくて。まだそのぬくもりが残っているうちに、エルドは村の奥――村長の家へと向き合って歩いていく。
 リュミは少し寂しそうな顔をしたけれど、なにも言わずにその背中を目で追っていた。

「……すぐ戻るって言ってたもんね」

 自分に言い聞かせるように小さくつぶやいたその声が、春の風に溶けていく。
 そのときだった。リュミの頭の上に、ふわりとあたたかな羽ばたきが降りてきた。

「リュミ」

 降りてきたのは、リンコだ。
 まんまるな体をぽすんとリュミの頭に乗せると、くちばしで髪をちょんちょんとつつく。

「くすぐったいよ、リンコ」

 リュミはくすっと笑って、肩を竦めた。

「せっかく村まで来たんだ。広場で遊んでいかないか?」

 隣から声をかけてきたのは、パッロだった。
 リュミは頷いて、胸元にちょこんと止まっていたムスティをそのままに、広場に向かって歩き出す。

 広場には、すでに何人かの子どもたちが集まっていた。
 リュミたちに気づくと、みんな顔をぱっと明るくして、弾むように駆け寄ってくる。
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