魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第38話 女神への誓い

 ゆっくりと重たいまぶたを盛り上げたとき――そこには、見たことのない天井があった。

 天井は低く、古びた木材の節が不規則に並んでいる。
 ぎしり、と小さく軋む音。がたん、がたん、と一定のリズムで揺れる床。
 耳をすませば、遠くで馬の蹄の音も聞こえてくる。

 薄暗く、閉ざされた馬車の中。
 窓には布がかけられ、光はほとんど差し込んでいない。扉もきっちりと閉ざされていて、リュミの小さな体でも抜け出せそうな隙間は見つからなかった。

 鼻の奥には、まだ残っている。
 あの甘く、くぐもったにおい――薬草のようでいて花蜜にも似た、どこか現実離れしたにおいだった。

 自分がなぜここにいるのか。
 思い出そうとするほど、頭の奥がぼんやりと霞んでいく。
 それでも少しずつ、ゆっくりと記憶が戻ってきた。

 村の広場。
 笑い声があふれていた、あの時間。
 そのとき、ひとりの子どもが血相を変えて走ってきたのだ。

『おねえちゃん、リュミおねえちゃん、はやく助けてあげて!』

 泣きそうな目。掠れた声。
 その必死な表情を見たとき、リュミの心は自然と動いた。

 助けたい。
 ただそれだけだった。

 迷う理由なんて、どこにもなかった。
 それが、リュミにとって一番大切な気持ちだったから。

 けれど。
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