魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第40話 ふわふわ軍団

 あれから、どれくらいの時間が過ぎただろう。
 小さな手を握りしめながら、リュミは思い出そうとしたけれど、うまく思い出せなかった。

 ただひとつ言えるのは、ずっとずっと……苦しかったということ。
 リュミは何度も何度も説明したのに、神官たちは誰ひとり、リュミの言葉に耳を傾けてはくれなかった。

「祈れば、わかるはずです」

「女神が示してくださる」

 そんな言葉ばかり。
 やさしい声で言うくせに、心にはなにも届いてこない。
 まるで高い壁に向かって話しているみたいだった。声は届かないし、出口も見えない。

(どうして、信じてくれないの? この子は魔物じゃないのに……)

 祈れば、わかってくれるのだろうか。
 でも、それは違うとリュミにはわかっていた。

 神官たちが見たいのは、ただリュミがスキルを使って《ふわふわ》で魔獣を癒す姿だけ。
 それを見せなければ、納得しない。

(そんなの、祈りじゃないよ……)

 今いるのは、神殿の祭具庫。
 整えられすぎたその空間は、まるで心を閉じ込めてしまう檻のようだった。

 壁も床も棚も、どこもかしこも冷たくて、無機質。
 なにもかもがきっちりしすぎていて、リュミは息が詰まる。

「祈りなさい。女神の御心に従うのです」

 神官の声が冷たい空気を震わせる。
 リュミは、そっと首を横に振った。
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