魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第6話 森の賢者、エルド

 パッロは体を低く構え、リュミを守るように前に出る。
 その姿は白く丸まった毛玉のように見えるが、全身から発せられる気配は、明らかに守る者のそれだった。金色の瞳には怯えも迷いもなく、ただただリュミを守ろうという一心が宿っている。

 リュミは小さな手をそっと伸ばし、パッロの背中に触れる。

「パッロ………だいじょうぶだから……ね?」

 震える声でささやいたその言葉には、幼いながらも相手を思いやる気持ちが込められている。
 彼──目の前にいる男は、リュミのことを守ると言っていた。けれど、パッロにとっては見知らぬ存在。ましてや、人さらいのように見えても不思議ではない。

 リュミは心の内を目に込めてパッロに訴える。
 少しだけ、ほんの少しだけ待って。お願い。

 不満げに鼻を鳴らしながらも、パッロはうなり声を喉の奥にひそめた。
 リュミの言葉を、いや、リュミそのものを信じたいらしい。
 金色の瞳を鋭く細めて、男の人に視線を移す。

 その男はというと、腕を組みながら、まるで一人芝居のようにぶつぶつとつぶやいていた。眉間にしわを刻み、目はどこか偏屈な光を宿している。

「なるほど……なるほど……ふむ、なるほど……興味深いな……」

 リュミは思わず首をかしげる。
 彼の口から出る言葉は支離滅裂で、なにを考えているのかまったく読めない。
 恩人なのか変人なのか判断がつかないどころか、正直ちょっと……いや、だいぶ引く。

「えっと……なにしてるの?」

「観察している」

 その答えと同時に、男はじり……じり……と、まるで獲物に近づく猛獣のような足取りで距離を詰めてきた。
 パッロの警戒心が一気に高まり、体を前に出す。
 しかし、リュミの視線が大丈夫と語りかけていたからか、威嚇の声は抑え気味だ。
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