魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第7話 兄よりも兄らしい存在

 リュミはふわふわの毛布にくるまって、うとうとと目を閉じていた。
 体がだるく、疲労がずっしりと重くのしかかっている。

 まぶたの裏には、森の光景がぼんやりと浮かんでいた。冷たい風、ざわめく木々、漂う不気味な気配。それでも、今は――。

 そっと目を開けると、ふわふわの毛並みを持つパッロが、足元に座っていた。
 まるでリュミのことを守るかのように、真剣な表情でじっと見つめている。

 日の光が窓から差し込んで、パッロの体をやさしく包み込むと、毛並みがほんのり銀色にきらめいた。
 それがあまりにも神々しくて、リュミの胸にほんの少しだけ元気がわいてくる。

「……おはよう、パッロ」

 リュミが小さく微笑みながら声をかけると、パッロは耳をぴくりと動かしてから、やさしい声で返す。

「おはよう、リュミ。今朝はいい天気だ。もし調子が良さそうなら、森を少し散歩しないか?」

 パタパタと楽しそうに尻尾を振りながら、パッロが提案してくる。
 パッロの明るいしぐさに、リュミの疲れた心がほんの少しほぐれる。

 その様子を部屋の隅からじっと観察しているのは、家主であるエルドだ。
 一人と一頭のやりとりに、まるで珍しい研究材料でも見つけたかのように目を輝かせ、興味津々で見つめている。

 そんなエルドの視線を感じ取ったパッロは、その視線からリュミを隠すように立ちふさがる。
 守る気満々だ。エルドの観察対象は彼も含まれているのに。

(絵本に出てくる、お兄さまみたい……)

 血のつながった兄よりも、種族すら違うパッロのほうが、ずっと兄らしいなんて。
 それはおかしな話かもしれないけれど……。

(でも、ふわふわなお兄さまってすてき!)

 思わず小さくふふっと笑って、リュミはゆっくりベッドから足を下ろす。
 思ったよりも足取りはしっかりしていて、体の痛みもそこまでひどくない。安堵の息が漏れる。
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