魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第8話 寝て、食べて、散歩して

 扉の隙間からこぼれる朝の光が、静かに部屋の中を照らしていた。
 その光は木目の床をやわらかく撫で、テーブルの上へと届く。そこには、湯気を立てるスープのパン、そして果物がのった皿――二人分の朝食が整えられている。

 スープボウルの縁から、ゆらりと湯気が立ち上る。
 その湯気は、ほんのりとした塩気と、じっくり煮込まれた野菜の甘くやさしい香りを運んでくる。
 においに誘われるようにして、小さな影がテーブルの椅子によじ登った。

「……あったかい」

 スープボウルを両手で包み込みながら、リュミは目を細めて、ほぅっと息を吐いた。
 小さな手が、おそるおそるスプーンを握る。少しだけすくって、口元へと運ぶ。

 そっと飲み込むと、体の内側からじんわりとあたたかさが広がった。
 やさしい塩気が舌をくすぐり、やわらかく煮込まれた野菜が、するりと喉を通っていく。
 それはまるで、リュミの傷ついた心に寄り添うような味だった。

「どうだ、食べられそうか」

 低く、少しぶっきらぼうな声が響く。
 体面の椅子に座った男――エルドが腕を組んでこちらをじっと見ている。
 鋭い目つきに緊張しながら、リュミは小さくコクリと頷いた。

「うん……おいしい」

「ならいい」

 エルドの返事はそっけない。
 でも、スープの中に入っている野菜は、小さな子どもでも食べやすいように、丁寧に細かく刻まれている。
 とてもわかりにくいけれど、エルドはやさしい人なのだろう。たぶん。

 リュミの足元では、パッロが座って、干し肉をガジガジとかじっている。
 その豪快な食べ方は、見た目のかわいらしさとは正反対で、思わずクスリと笑みがこぼれてしまう。
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