魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第12話 小さな冒険

 リュミがこの森に足を踏み入れてから、いつの間にか一週間が経とうとしていた。
 最初は右も左もわからず、ただ戸惑うばかりだったけれど、パッロとエルドの教えを真剣に聞き、何度も同じ説明を聞き返しながら、ひとつひとつ覚えていった。

 今では――まだ不安はあるけれど、それでもたしかな手応えを感じ始めている。
 薬草と毒草の見分け方、最も成分が安定している時間帯や採取方法、それに、持ち帰ったあとの乾燥や保存の仕方など、基本的なルールは身についてきた。

 もちろん、完璧とは言えないし、油断すれば失敗もする。
 それでも、日々の努力は確実にリュミを成長させている。

 昨日より今日、今日より明日へ。
 積み重ねた小さな成功体験が、リュミの自信となって根を張っていく。

 薬草を摘む手つきもぎこちなさが減り、動きに無駄がなくなった。
 慎重に、でも怖がりすぎず、ちょうどよい加減で手を動かせるようになってきた。

 子どもの可能性は、まさに無限大だ。
 リュミには強い意志がある。それに、パッロとエルドという、やさしくて頼れる師がそばにいる。

 もし才能という言葉を使うなら、それはたしかにリュミの中に眠っていた。
 そして、「好き」「楽しい」という気持ちが加わった今、それは目を見張るようなスピードで開花し始めている。

「エルドさん、採りすぎは良くないって言ってたから……」

 そうつぶやきながら、リュミは手を伸ばしかけていた薬草からそっと手を引く。
 森の中の資源には限りがある。必要なぶんだけを、森に感謝していただく――エルドが教えてくれた大切なルールだ。

 ふと顔を上げたとき、目に入ったのは、これまで通ったことのない細い道だった。
 木々の間から差し込む日の光に照らされて、やわらかな光が道を導くように揺れている。

「パッロ、見て! ここ、まだ来たことない場所だよ!」
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