魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第2話 フォルステアの無能娘

 玄関にたどり着くと、扉がゆっくり開き、家族が無言のまま中に入っていく。
 両親も兄もリュミには目もくれず、まるで彼女の存在など最初からなかったかのように、それぞれの部屋へと引き上げていった。


 誰もリュミを振り返らなかった。
 誰ひとり、言葉をかけてはこなかった。

(つかれたな……)

 胸の奥に、ずしりと重たい石が沈んでいるよう。息をするたびに、それが肺のあたりを押しつぶす。
 足を止めたら置いていかれてしまいそうで、リュミは慌てて屋敷の中へ足を踏み入れる。

 けれど、そこに広がっていたのはぬくもりのない静寂だけ。
 いつもなら「おかえりなさいませ、お嬢様」とやさしく迎えてくれるメイドの声があるはずなのに。

 玄関ホールはがらんとしていて、ただ重たい扉が閉まる音だけが、無遠慮に響いた。
 重たい扉が閉まる音だけが、がらんとした玄関ホールに響く。

 誰もいない。誰もリュミを必要としていない。

 寂しさを噛み殺すようにして、自室の扉を開けた。
 部屋の中は、朝出かけたときのまま。きちんと整えられたベッドが、どこか他人のもののように見える。

 靴を脱ぐ元気もなく、リュミはそのベッドに飛び込んだ。
 やわらかいはずのシーツが、妙に冷たい。

 目を閉じる。
 けれど、頭の中はザワザワして、静けさが訪れない。

(《ふわふわ》って、なんだったのかな……)

 力の抜けたような思考が、フラフラと彷徨う。
 スキル鑑定、周囲の目、両親の無言、兄の失望、なにより自分自身の不安。
 全部が一緒くたになって、胸の奥を鈍く叩いてくる。
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