魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第15話 鳥魔物のリンコ

 「リュミ、知ってる……その姿を見た人は不幸になるんでしょ?」

 空を舞う、赤い影。
 巨大な翼が夕暮れの空を裂くように旋回し、冷たい風が谷あいを撫でていく。

 その恐ろしさを、誰もが語る。
 その名を聞くだけで子どもは泣き、大人でさえ顔を強張らせる。

 ――禍翼の凶鳥。

 だけど、どうしてだろう。
 リュミの胸の奥では、その恐怖とは違う、なにかあたたかいものが芽生えていた。

 怖くない、と言えば嘘になる。
 でも、それ以上に感じるのは、不思議なほどの懐かしさ。

 心のどこかで確信している。
 本当は襲いたいんじゃない。リュミに近づきたいだけだと。

「ふわふわ、してほしいんだよ……きっと」

 ぽつりとこぼれたリュミの声に、そばにいたパッロがはっと顔を上げ、鋭いまなざしでこちらを振り返る。
 リュミの気持ちを見極めるように目を細め、小さくため息を吐く。

「……リュミは、そう思うのか」

 リュミは、こくんと静かに頷いた。
 小さな拳をぎゅっと握りしめて、まっすぐにパッロを見つめる。

(こわいよ……泣きたくなるくらいこわいけど、それでも……)

「やってみる」

 その言葉に、パッロの目がわずかに揺れる。

「リュミ……」
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