魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第16話 仲が良いのか、悪いのか……

 森を抜けた瞬間、淡く茜色に染まった空の下、視界いっぱいにエルドの家が飛び込んでくる。
 苔むした屋根と、煙突からうっすら立ち上る煙。
 家の窓からは、ランプのやわらかな光が漏れており、夕闇の中にほのかなぬくもりを漂わせている。

 どこか懐かしいような光景に、リュミは思わず胸を撫で下ろした。
 ここまで来れば、もう安心だ。
 空気はすっかり冷え始め、背後の森からは夜鳥の鳴き声がちらほらと聞こえてくる。

 不安と疲れが混ざった気持ちの中で、リュミはそっと息を吐く。
 もう大丈夫――そう思いながら、リンコをしっかりと抱えたまま、戸口に足を踏み入れた。

「た、ただいま……っ!」

 扉を開け放ち、少し息を切らしながら声をかける。

「おかえり。……ん?」

 奥の机で分厚い本を広げていたエルドが、ぱたんとページを閉じて顔を上げた。
 リュミの顔を確かめるように見たあと、すぐさま彼女の腕の中へと吸い寄せられる。

「……なんだ、それは」

 低くうなるような声とともに、エルドの眉がぴくりと動いた。
 リュミはおそるおそる、腕の中のリンコを少し持ち上げる。

「えっと、その……鳥の魔物が、ふわふわになっちゃって……」

「ふわふわに?」

 エルドの眉がさらにひそめられる。
 リンコはリュミの腕の中でバサッと羽を広げ、まるで威嚇するようにエルドを睨みつけた。
 その姿はどこか必死で、自分を大きく見せようとしているようにも見える。
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