魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~

第18話 助けを求める村人

 その日、エルドの家は、いつになくにぎやかだった。
 パチパチと薪がはぜる音に混じって、言い争いと笑い声が飛び交う。まるで市場の片隅みたいに慌ただしく、そしてどこかあたたかい。

「ちょっと! その薪の置き方じゃ風通しが悪いのよ! 火がくすぶって煙ばかりになるでしょ!」

「誰に言ってるんだ。火の扱いで鳥に説教される筋合いはない!」

「鳥じゃなくて禍翼の凶鳥よ、恐ろしい存在なの! いいから、わたしの言うことを聞きなさいってば!」

 棚の上で翼を広げてわめくのは、真っ赤な羽毛を持つ鳥の魔物リンコ。
 体はふわふわと丸く、アヒルくらいの大きさしかないけれど、態度は山の王様のように尊大で、口は達者である。

 暖炉の前で黙々と火をいじっていたエルドが、顔も上げずに低く返す。

「じゃあ黙って見てろ。文句ばかりで役に立たないやつに言われたくない」

「はぁ⁉︎ わたしが黙ったら、この家が煙だらけになってリュミが泣くのよ!」

「こいつはそんなに弱くない」

 エルドがちらりとリュミを見やりながら、短く言い放つ。
 リュミは薬草の束を抱えながら、その言葉に思わずくすっと笑う。

 ぶっきらぼうだけど、やさしさのにじむ声音。
 そのかすかなあたたかさが、胸の奥をくすぐる。

「ふふ……でも、リンコのおかげで火のこと、ちょっとだけくわしくなったよ」

「ほら見なさい!」

「甘やかすな」

 リンコは勝ち誇ったように胸を張り、羽をふわりと広げてドヤ顔を決める。
 一方のエルドは、あからさまに眉をひそめ、眉間にしわを寄せて不機嫌を隠そうともしない。
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