私をフッた元上司と再会したら求愛された件
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夜八時。最終水曜日の今日、『プログレッシブ・コンサルティング』デジタルマーケティング部のフロアは、珍しく閑散としていた。
水曜は定時退社デーに定められているが、いつもならフロアの半分くらいの人が無視して仕事をしている。今日に限ってみんな真面目なのは、月の残業時間調整のため。あんまり残業時間が多いと、人事から名指しで忠告が来て、上司に怒られるから切実だ。
私もそれなりに残業が多い方なので、本当は帰った方がいい。でも明日クライアントに提出予定だった分析資料に、追加調査の要望が今朝来たので、その対応に追われていた。
同じチームの先輩たちも一緒に残ってくれようとしていたものの、みんな今日は用事があると言っていたから、遠慮して先に帰ってもらった。入社二年目の若手だし、いつも仕事が遅くてチームの足を引っ張っているから、こういう時に役立っておかないと、そう思って。
「終電までには終わるかなぁ……」
あと四時間。データの収集はなんとか終わって、分析も途中までできている。分析が完了したら、後はその内容を資料へ落とし込むだけ。
気合いを入れればオフィスに泊まり込みは回避できると思う。そう意気込んで、私は再びキーボードに手を置いた。
「園崎、お疲れ。資料大丈夫そうか?」
突然背後から声がして、私は椅子から転げ落ちそうになった。驚いて振り返ると、今回のプロジェクトマネージャー――つまり今の私の上司である戸川玲(とがわれい)さんが、コンビニのビニール袋を手に持って、クールな目で私を見下ろしていた。
すでに十時間以上働いているのに、戸川さんにくたびれた様子はなく、いつも通りかっこいい。イケメンな上に仕事もできて、戸川さんは二十八歳という若さでPMに昇格している。四年後に私が昇格することはまずないだろうから、本当にすごい人だ。
そんな完璧な戸川さんに憧れている人は男女問わず多く、私もそのひとりだったりする。ナチュラルに流した黒髪から覗く丸みを帯びた瞳を見ていると、顔が熱を持ってしまいそうで、私はさりげなく俯いた。
水曜は定時退社デーに定められているが、いつもならフロアの半分くらいの人が無視して仕事をしている。今日に限ってみんな真面目なのは、月の残業時間調整のため。あんまり残業時間が多いと、人事から名指しで忠告が来て、上司に怒られるから切実だ。
私もそれなりに残業が多い方なので、本当は帰った方がいい。でも明日クライアントに提出予定だった分析資料に、追加調査の要望が今朝来たので、その対応に追われていた。
同じチームの先輩たちも一緒に残ってくれようとしていたものの、みんな今日は用事があると言っていたから、遠慮して先に帰ってもらった。入社二年目の若手だし、いつも仕事が遅くてチームの足を引っ張っているから、こういう時に役立っておかないと、そう思って。
「終電までには終わるかなぁ……」
あと四時間。データの収集はなんとか終わって、分析も途中までできている。分析が完了したら、後はその内容を資料へ落とし込むだけ。
気合いを入れればオフィスに泊まり込みは回避できると思う。そう意気込んで、私は再びキーボードに手を置いた。
「園崎、お疲れ。資料大丈夫そうか?」
突然背後から声がして、私は椅子から転げ落ちそうになった。驚いて振り返ると、今回のプロジェクトマネージャー――つまり今の私の上司である戸川玲(とがわれい)さんが、コンビニのビニール袋を手に持って、クールな目で私を見下ろしていた。
すでに十時間以上働いているのに、戸川さんにくたびれた様子はなく、いつも通りかっこいい。イケメンな上に仕事もできて、戸川さんは二十八歳という若さでPMに昇格している。四年後に私が昇格することはまずないだろうから、本当にすごい人だ。
そんな完璧な戸川さんに憧れている人は男女問わず多く、私もそのひとりだったりする。ナチュラルに流した黒髪から覗く丸みを帯びた瞳を見ていると、顔が熱を持ってしまいそうで、私はさりげなく俯いた。