二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
プロローグ
何度も、何度も夢に見る。
極度の緊張と僅かな期待、痛いほどの胸のときめきを覚えたあの一夜が、二年経った今も千咲の中から消えてくれない。
『君は頑張ってる。もう自分を責めなくていい』
足を踏み入れたことのない高級ホテルの一室。憧れていた彼に慰められ、甘やかされた夜。
『千咲が抱えているものを、俺も一緒に背負うから』
永遠の愛なんて信じていなかったけれど、もしかしたら彼となら……。
そんなふうに思えるほど、大切に触れてもらった。
現実は甘くないと知っていたのに。そもそも、自分が他人から愛されるはずなんてないのに。
夢の中の千咲は、そんな考えが吹き飛んでしまうほど、彼の優しさに溺れていた。
甘い言葉、優しい口づけ、他事を考えられなくなるほどの快楽。初めて与えられたそれらは、千咲の理性を徐々に蕩けさせ、崩していった。
けれど、現実の千咲は知っている。
甘ったるいキスと快感に酔いしれ、彼から愛されていると信じ、自分も永遠の愛を手に入れられるのではないかと淡い希望を胸に抱いた、たった数時間後。
その僅かな希望は粉々に砕け散るのだ。
そして、思う。
やはり、自分は愛されないのだと――。
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