二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
エピローグ
千咲は櫂と入籍し、名実ともに家族となった。
銀行やクレジットカードなどの名義変更で、何度『須藤千咲』と書いても、いまいち彼と結婚した実感が湧かなかった。すでに一緒に住んでいたのもあるし、婚姻届の受理が一瞬で感動に浸る間もなかったというのもある。
けれど紬の保育セットのお名前シールを『すどうつむぎ』に貼り替えた時、家族になったのだと心の奥にストンと落ちた。嬉しくて、くすぐったくて、言いようのない幸福感に包まれたのだ。
入籍と同時に、彼の住むマンションへと引っ越しを済ませた。とはいえ、すでに一緒に暮らしていたため荷物のみの引っ越しだ。
引っ越し業者や電気ガス水道の停止など、手配はすべて櫂がしてくれた。千咲の実家は、櫂の父親が紹介してくれた不動産会社を通じて売却の手続きをしている。
櫂は「誰かに管理させればいいんじゃないか」と言ってくれたが、人が住まなければ家は劣化するし維持費もかかる。築年数も経っている上に防犯面での不安はこれまでにも感じていたため、これを機に手放すことにしたのだ。
長年祖母と暮らし、紬が生まれ育った家がなくなってしまうのは少し寂しいけれど、たくさんの思い出は千咲の胸にしっかりと刻まれている。
そう告げると、櫂は安堵したように笑って頷いた。