二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
2章

現在、千咲は一歳四ヶ月の紬とふたりで、祖母と住んでいた家で暮らしている。かなり築年数が経っているけれど、引っ越すほどの余裕も、祖母との思い出の詰まった家を手放す勇気もない。

櫂とは連絡先を交換していなかったため、あれから一切連絡を取っていない。当然、彼は紬の存在を知らないままだ。

妊娠が発覚したのは、櫂の前から姿を消した一ヶ月後。

あの晩、何度も彼と身体を重ねた。もちろん避妊はしていたけれど、どこかのタイミングで失敗してしまったのだろう。

正直なところ、どうしようとは悩まなかった。母から愛されず、祖母を助けられなかった自分に、子育てなどできるはずがない。

そう思ってすぐに病院へ行ったが、エコーで小さな心臓が懸命に動いているのを見て、診察室で号泣してしまった。

救命士という仕事に誇りを持っていた千咲に、必死に生きているお腹の赤ちゃんの命を奪う選択なんてできなかった。

そして、櫂に会いに行かなかったのも同じ理由だった。

盗み聞いた離婚問題にどう決着がついたのかは知らないが、千咲に子供ができたとなれば円満解決とは程遠くなるのは目に見えている。

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