二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~
3章《櫂Side》

『⋯⋯娘?』

たっぷり数秒の沈黙の後に、律の訝しげな声が聞こえてくる。

普段はポーカーフェイスで感情をあらわにしない兄だが、海の向こうで驚きに目を見開いていると思うと、自然と口元に笑みが浮かんだ。

「あぁ。二年前、振られた女性がいるって話はしただろ? その彼女が俺の子を生んでくれてたんだ」
『⋯⋯意味がわからない』

それもそのはず。櫂は律からの国際電話で帰国についての話を聞き終えたあと、詳しい事情を語らないまま、自分に子供がいるのだと打ち明けたのだから。

「兄貴が帰国したら説明するよ。それより、未依には連絡したのか?」
『あぁ』

律の声が心なしか弾む。

彼はなにも知らずに肯定するが、幼なじみの未依が離婚を諦めていないであろうことは櫂も気付いている。夫から帰国の報告を受け、今度こそ話を切り出そうと決意を新たにしているところだろう。

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