涙のあとに咲く約束

第一章 噂の人と、小さな出会い

 この会社に転職して、ようやく一週間が経つ。

 まだ自分の机と、コピー機と、給湯室の位置ぐらいしか覚えられていない私、松下(まつした)理緒(りお)は、今日も新人らしく慌ただしく仕事をこなしていた。

 前職は販売職で、こうしてオフィスに腰を据えてパソコンを相手にする毎日は初めてのことだ。

 覚えることは山ほどあって、正直頭の中はパンク寸前である。しかし、短大を卒業して就職した会社での販売業は思っていた以上に肉体労働かつ、オーバーワークで身体を壊してしまい、五年で退職した。
 そのため、半年の療養を終え再就職した今の会社は、それまでとは違う職種でデスクワークがメインだ。今のところ、身体にそこまで負担がかからず、私に合っていそうだ。

 ただし、私が配属されたのは経理部で、常に数字とパソコンをにらめっこする仕事だ。そのため、眼精疲労を緩和するために目薬とホットアイマスクは欠かせない。

 今日も休憩時間に、私はドラッグストアの店員が一押ししていた目薬を目に挿していた。
 
 ——そんなふうに少しずつ慣れてきた頃、給湯室でお茶を淹れていた私は、偶然そばにいた先輩二人の会話が耳に入った。


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