涙のあとに咲く約束

第二章 看病と距離の縮まり

 数日後、藤堂さんが子どもの体調不良を理由に欠勤した。

 社内で運用しているチャットを開くと、「本日、総務部の藤堂係長はお休みです。至急の用件はほかの者で対応します」と書かれた総務部からのメッセージが飛び込んできた。

 私は藤堂さんのお子さんの容体が気になって、仕事中も心がそわそわしてしまう。
 
 定時を迎えると、スマホを握りしめたまましばらく悩み、思い切って先日連絡先を交換した通話アプリにメッセージを送った。

『松下です。突然のご連絡すみません。お子さんの体調が悪いと聞きました。お見舞いに行ってもいいですか?』

 送った瞬間、心臓がどくんと大きく跳ねる。無理やり連絡先を交換した上に、こんなふうに自宅へ押しかけるようなメッセージを送り、迷惑だったらどうしよう。そんな思いが強かった。

 しかし数分後、短く『助かります』と返ってきた文字に、胸の奥が温かくなった。

 何かお見舞いで持って行くものや必要なものはないかと問うメッセージに、特に必要なものはないとの返事だったけれど、私は途中にあるドラッグストアで、経口補水液とゼリーを購入した。

 藤堂さんの家の場所を地図で送ってもらい、それを頼りに私は藤堂家へ向かう。
 玄関のインターホンを押すと、少し疲れた顔の彼が出迎えてくれた。
 リビングのソファでは、小さな男の子が毛布にくるまってぐったりしている。
 
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