側溝の天使

第45話 旅路

いよいよ出発の日となりました。朝から雲一つない青空に恵まれ、まさにポン子日和かもしれません。まずポン子を抱っこして、それぞれのケージに入っている猫や、ケージに入っていない猫たちとお別れをしました。いつものあいさつを交わしているだけだと思っている猫たちの表情を見ていると、一層寂しさが募ります。



「ポンちゃん、みんなに行ってきますと言ってね」



もちろんしゃべるはずはありませんが、ポン子だけはいつもと違う様子に胸騒ぎを覚えているのかもしれません。部屋の中に差し込む朝日に顔が照らされ、どこか緊張しているようにも見えます。



昨日のうちに、必要なものはすべて車に積み込んであります。また、新しく購入した赤い首輪も、昨日ポン子につけておきました。かなり嫌がって抵抗しましたが、厚手の皮手袋をして無理やりつけました。道中の散歩にはリードを首輪につける必要がありますから。



さて、ポン子をケージに入れて、いよいよ出発進行となりました。



一時間足らずで関門海峡を渡り、山陽道をひた走ります。山口県あたりの国道は広く、よく整備されており、車の量も少ないのでスイスイと進みました。さすが、歴代の大臣が何人も輩出した地域だけあって、立派な道です。



五時間ほどで小谷こだにサービスエリアに到着しました。白塗りの建物が清々しい印象です。ポン子は何やら落ち着かない様子。無理もありません。車窓から見える景色が刻一刻と変わっていくのですから。



車をできるだけ隅に停め、ポン子の首輪にリードをつけて歩かせました。私とポン子が散歩している間に、啓子がパンを買ってきてくれました。ポン子にも少しパンを与えてみましたが、食べようとはしません。いつものロースハム一切れと、カットした野菜とドッグフードを混ぜてやると、食べてくれました。



ひととおり休憩を取ったら、再び出発です。気分転換をしたおかげで、新たな活力が湧いてきて、スムーズに旅を再開できました。



旅のために用意していたCDで、ハワイアンソングや60〜70年代にヒットしたフォークソングを聴きながら、時折、車外の景色に目をやります。長時間同じ姿勢でいるためか、次第に疲れを感じ、大津サービスエリアで休憩をとることにしました。



なだらかな斜面を歩くと、遠くに琵琶湖が横たわっているのが見えます。散歩をさせていると、早春のそよ風がポン子の茶色の毛をやさしく揺らしていました。

-続-
< 47 / 52 >

この作品をシェア

pagetop