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◆第2章 “Joker”
登校してすぐに自分の席についた。
いつもなら真っ先に亜里沙の机に集まるところだけれど、当然そんな雰囲気ではもうない。
あれ以降、ふたりからのアクションもなし。
完全にわたしを無視し、のけ者にする方向へとシフトしたらしい。
杏にとっては願ったり叶ったりだろう。
昨日からそうだったものの、ひとりでいるわたしにわざわざ声をかけてくれるような人もいなかった。
目が合えば挨拶くらいはするけれど、それだけ。
わたしが逆の立場でもたぶんそうする。
用もないのに、ほかにもっと親しい友だちがいるのに、話す理由なんてないから。
何とはなしにSNSのタイムラインを流して見ていると、ふいに隣に気配が現れた。
速見くんだ。
どきりと跳ねた心臓がナーバスな鼓動を刻む。
絶えずクラスメートと「おはよう」と挨拶を交わす彼が、背負っていたリュックを下ろしたのを横目で捉えた。
どういう顔をすればいいのか分からない。
以前のように接するなんて無理だし、もう気を許せる相手じゃなくなっていた。
「おはよ」
それがわたしに向けられたものだと気づいたのは、応じる声が続いて聞こえなかったからだ。
あくまでニュートラルな、どうってことない声色だった。
「あのさ、天沢」
驚きはしても彼の方を向けずに固まっていると、そんなふうに切り出される。
さすがに昨日の放課後のことが心に留め置かれているのか、どことなく重厚な語り口だ。
「……ごめん、何でもない」
何を言われるのかと身構えていただけなのだけれど、どうやらわたしが無視していると受け取ったらしかった。
聞きたかったような、聞けなくて安堵しているような、複雑な心境に陥る。
少なくとも1軍たちやクラスメートの態度を見る限り、速見くんはまだ、わたしのアカウントのことを言いふらしてはいないようだ。
いつまで生殺しにしておくつもりなんだろう。
(あー、気が重い。いますぐ消えたい)
昼休みになり、席でひとり弁当を広げた。
机を寄せ合って楽しそうに話すクラスメートたちの中で、わたしだけが孤独。
そんなわけなくてもそのことを笑われているような、友だちいないんだとばかにされているような、ひどい居心地の悪さを覚えた。
いや、実際に亜里沙たちが嘲笑の的にしている可能性はあるけれど。