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◆エピローグ Re:

 学校の最寄り駅に着くと、同じ制服姿の人たちが多く目に留まるようになった。
 この群れの中に溶け込もうと必死で、はみ出ないよう神経を摩耗(まもう)し続けていた自分を思い返す。

 “その他大勢”が安穏だからとそこに身を起きながら、大それた青春の幻想のために虚構(きょこう)を上塗りし続けていた。
 そんな矛盾を自覚して思わず小さな笑いがこぼれる。

 ここのところ、何だか怒涛(どとう)の毎日だった。
 速見くんにあのアカウントがバレてから、色々なものを失って色々なことが変わった。
 それは決して、悪い方向にだけじゃない。

 そして、彼もまた同じだ。
 ジョーカーに暴かれたいま、恐らく完全に元に戻ることはない。彼自身も周囲も。
 でも彼は自分の意思でそうするような気がする。
 もとい、()()()()ような。

 これはある種“戦友”のようにさえなったわたしの勘だけれど、ジョーカーによる、辻くんによる暴露劇には速見くん本人も加担していたのだと思う。
 彼が言っていた通り、先んじてその正体にたどり着いていたけれど、それでも辻くんに結末を委ねた。
 いっそ、すべて暴かれてしまいたいと実は願ったんじゃないだろうか。

 自分を押し殺しながら、人知れずずっと苦しんでいた。
 それでも幼少期の母親との時間を裏切れずに、自己肯定感を高める儀式のようにさえなって、自分から開き直ることができなくなっていた。
 承認欲求と自己否定の裏返し。

 だけど、もう終わらせたかった。
 ほかでもない辻くんがそうしてくれるなら本望だったんだろう。
 その先どうなるかは分からないけれど、賭けたんだ。

 一見充実していて一見正しい青春の中で、変化を恐れるくせに救いを求めていた矛盾────。
 わたしたちは、ずっともがいていた。
 はっきりしたのは、自分を偽ると壊れるのは“関係”ではなく“自分自身”だということ。

『見てられないんだよね。痛々しくて』

 あれはきっと最初に見せてくれた本音。
 必死で自分を殺して偽るわたしに、彼も彼で自分を投影していた部分があったのだと思う。
 自分に向けた言葉でもあったのだろう。

 仮にそうなら、あのお節介は擬似(ぎじ)的にわたしを救おうとしていたからだったのかもしれない。
 そのことに価値を見出していたなら、もしかして、とよぎった可能性があった。

(Otoの正体は、速見くんがリークしたのかも)

 黒板に書いた犯人自体は杏で間違いない。
 けれど、いくら恨んでいたからって、あのタイミングでOtoがわたしだという事実にたどり着くのはいささか不自然だ。
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