マリオネット

捨て猫を拾いました

「じゃあ……。まず、名前を知りたいです」

右京…凪(うきょう なぎ)

(なぎ)?カッコいい名前!」
 つい素が出てしまった。
 私の発言に彼は笑ったかのように見えた。

「お姉さん、それで俺はどうすればいいの?」

 私はフッと微笑み
「一緒に来てほしいところがあるの」
 そう伝えた。

「俺、保護施設とか連れて行かれるの、絶対嫌だからね。役所の相談窓口とか。だったら死ぬ……」

「違うから。立って、早く行こう?」
 私は彼の手を無理やり引っ張った。

「お姉さん、よく触れるね。俺、何か月も風呂入ってないよ?」
 俯きながら彼は私に恥ずかしそうに告げた。

「私の名前は、陽菜乃。凪は命の恩人だから、汚いなんて思わないよ」

 こうして私は彼をうまく丸め込むことに成功した。
 私が凪を連れて向かった先は――。





「ちょっとだけ。ここで待ってて。あっ、逃げちゃダメだからね?」
 彼に会う前はそんなつもりじゃなかった。
 昨日のお礼だけ伝えて、ケガとか無いか確認をして。例えば、気持ち程度に差し入れを渡す……。くらいにしか考えていなかった。

 けれど――。
 私は捨て猫でも拾ったかのように、凪を自分の家に連れて来た。

「もう逃げないよ。ていうか、ここどこ?」

「私の家。なんだけど、散らかってるから。片付けるまで玄関で待機してて?」

 自分で言うのもおかしいが、仕事はできる女だと思っている。
 しかしやろうと決めない限り、家事を疎かにしてしまうところがあった。衣類と化粧道具などが散乱している。
 翔太郎にも、家事をしないところが原因でフラれた。
 あの時は、自分の悪いところは直すって言ったけど、結局フラれてしまったため、直っていない。結局、直そうともしなかった。
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