光の向こうへ

始まりの痛み

治療開始の日の朝。
 病室の空気は張りつめていた。
 点滴スタンドに新しい薬剤のパックがぶら下がり、透明な管の先が咲の腕に繋がれている。

 「これを始めれば、本当に楽になる?」
 咲は不安そうに俺を見上げた。
 「……すぐにじゃない。でも、未来を変える可能性はある」
 「可能性、ね」
 彼女は乾いた笑みを浮かべたが、すぐに視線を逸らした。

 針が刺さり、薬が体内へ流れ込んでいく。
 咲の指先がわずかに震えた。
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