勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

第16話 お見合い話

 クラウド様とお見合い?!
 思わず聞き耳を立ててしまう。

「クラウド様とお見合いだなんて羨ましいわ」
「でも、私の前に五人もお断りされてるみたいなの。大丈夫かしら……」
「お見合いはどんな感じだったの?」
「両親も心配しているから、そろそろ身を固めないといけないとは言っていたけど」

 クラウド様は未だ婚約者もいないし、今まで恋人もできたことはない。
 何度もお父様がお見合い相手を連れてきているそうだが、頑なに断っているそうだ。
 それは、シオン様のことが好きだからだと思っていた。
 確かにご両親は年齢的にはそろそろ身を固めて欲しいと思うだろう。

 それに、シオン様は私と結婚している。
 だからといってクラウド様がもし結婚すれば、今までのように毎朝稽古をしにグラーツ家に通ったり、二人で過ごす時間がなくなる。それでは距離が開いていくばかりだ。

「話、気になるの?」

 考え込んでいたら、シオン様が耳元で囁くように声をかけてきた。
 彼女たちに聞こえないようにしているのだろう。

「えっと……少し」
「そうなんだ……」

 シオン様も聞いていたのだろうか。
 悲し気な表情でベンチにもたれる。
 シオン様も気になるよね。クラウド様の結婚、どう思っているのだろう。

 そもそも、私とは家のために結婚した。
 もしかしたら、お互いの結婚は仕方がないことだと思っているのだろうか。
 愛し合っているのに別々の道を歩むなんて、なんだか悲しい。
 結婚はできずとも、一緒に人生を歩むことはできるはずなのに。
 
 やっぱり、私が早く離縁しなければ。
 私がいなければ、お二人はもっと遠慮することなく一緒にいられるようになる。

 そのために、まずクラウド様に一度お見合いのことを聞いてみよう。
 
 翌日、朝の稽古終わりのクラウド様を待ち伏せした。
 シオン様は中庭から執務室へと向かうので、別れたところを見計らい門の前でクラウド様を呼び止める。

「少し、お話よろしいですか」
「うわっ、なんだよびっくりした。ティア嬢が話なんて珍しいな」

 垣根の陰に隠れて、話を切り出す。

「お見合いされたと聞きましたが、ご結婚を考えてらっしゃるのですか?」
「あー、できればしたくないけどな。面倒だし」
「でも、しなければいけないと思っている?!」

 昨日のご令嬢は、クラウド様がそろそろ身を固めないといけないと言っていたと話していた。
 思わず詰め寄ってしまい、クラウド様は怪訝そうな顔をする。

「周りがうるさいからな。俺は仕事だけしてたいんだけど」
「仕方なく、お見合いしているということですか」
「さっきからなんだよ」
「すみません、クラウド様のお気持ちを聞いておこうと思いまして」

 まとめると、結婚したくはないけれど周りがうるさいから、そろそろしなければいけないとは思っているということか。

「クラウド様、私が言えることではないですが、望まない結婚はするべきではないと思います」
「まあ、そりゃそうだな。嫌々結婚したって上手くいくとは思わない」
「その通りです!」

 クラウド様の奥様になる人はきっとクラウド様からの愛を求めるだろう。
 でも、きっとその愛は得られない。
 私とシオン様のような白い結婚生活を受け入れられる女性はそうそういないはず。
 お相手が悲しい思いをしないためにも、やはりこの結婚、見送ってもらわなければ。

「何がその通りなの?」
「シオン様……」
「はあ、来ると思ってたぜ」

 シオン様はにこやかに近づいてくる。
 でも、目は全く笑っていない。

 クラウド様はため息を吐き、じゃあなと言って帰ってしまった。

 ええ。今ここでシオン様と二人きり?!
 
「クラウドと何を話してたの?」
「えっと……先日の、お見合いの話を……」

 正直に言うべきか迷ったけれど、ここで噓をついても後からクラウド様から聞けばどうせばれてしまう。
 それに、シオン様もお見合いのことが気になっているのではないかと思った。

「それで?」
「クラウド様は、本当は結婚はしたくないと」
「ティアは、どう思ったの?」
「望まない結婚は、しなくても良いのかなと……」
「へえ、そっか」

 なんか、機嫌悪い?
 クラウド様が結婚したくないと思っていること、シオン様は嬉しくないのだろうか。

「……早く結婚してしまえばいいのに」

 え……。ぼそりと呟いた言葉に驚いた。
 結婚してしまえばいい?
 クラウド様の結婚を望んでいるの?
 そうなれば、今までのように一緒にいられなくなるのに。

 もしかして、クラウド様への想いを断ち切ろうとしている?
 一緒になれないのなら、お互い結婚していっそのこと離れてしまおうと?

 きっとそうなんだ。
 お二人は、関係を隠している。それは、この関係が認められないと思っているから。
 確かに、男性同士のカップルは一般的ではないかもしれない。
 でも、何も悪いことではないし、女性の間ではむしろそれがいいなんて盛り上がっている話も聞く。

 そうだ、何も悪いことではないと気づいてもらえばいいんだ。
 お二人は一緒にいてもいいのだとわかれば、離れてしまおうなんて思わなくなるはず。

 私は部屋に戻ったあと、本棚から、隠すようにしまっていた小説を取り出す。
 今まではシオン様に見つからないようにこっそりと読んでいた。
 でも今回は、これをわざと目につくところに置いて、手に取ってもらおうと思っている。

 シオン様はこういった本は読んだことがないだろう。
 私はリビングのソファーに本を置いて、様子をうかがうことにした。
 
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