勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~
第22話 失った力
体が熱い。痛い。額に流れる雫を感じ、目を開けた。
寝室だ。そうだ私、劇場で……刺されたんだ。
そっと腹部に触れる。傷口はしっかり塞がっていた。お腹が痛い、ということもない。ただ全身が熱くて痛い。経験したことのない痛みが体を巡る。
ゆっくりと体を起こし、窓の外を眺める。
空が赤く染まっている。今は夕方なんだ。私はどれくらい眠っていたのだろう。
自分でも意外なほど落ち着いているのは熱で頭が回っていないからだろうか。
「シオン様……」
あの時、女性はシオン様を狙っていた。シオン様は無事だろうか。
周りに人もたくさんいたし、女性は捕まっているだろう。
でも、シオン様は? あの後どうなったのだろう。
会いにいかないと。
ベッドから下りて部屋を出る。体は重いけれど、傷は塞がっているので動けないことはない。
壁を伝いながら、いつもこの時間いるであろう執務室へと向かう。
けれど、ドアをノックしても返事がない。部屋を覗いてみたけれど、そこにはいなかった。
屋敷中を探すけれど、リビングにも、客間にもいない。
どうしていないの?
最悪の事態が頭をよぎる。
シオン様にかぎってそんなことあるわけないよね。
毎日あれだけ稽古を積んでいるんだから。
でも、どこを探してもシオン様はいなかった。
私は中庭に出た。なんだか、広く感じる。無性に不安になり、足がすくむ。
そして、その場にへたりこんでしまった。
「ティア!」
その時、後ろからシオン様の声がした。
すぐに温かい腕に包み込まれる。
「どうしてこんなところにいるの? 体は大丈夫?」
「目が覚めて、シオン様を探そうと思って、でもどこにもいらっしゃらなくて、それで……」
「ごめん、出かけてたんだ。とりあえず、部屋に戻ろう」
私はシオン様に抱えられ、部屋へと戻った。
優しくベッドに寝かされ、そっと頭を撫でられる。
「まだ熱が高いから、ゆっくり寝てて」
「シオン様はお怪我はありませんか? 劇場ではあの後どうなったのでしょう」
「彼女はあの後すぐに捕らえられたよ。ティア、元気になったらゆっくり話そうと思ってたんだけどね」
「はい……」
シオン様は私の頭を撫でたまま真剣な表情をする。
「もう、僕を庇って無茶なことは絶対にしないで。ティアが刺されて生きた心地がしなかった」
「すみません……体が勝手に動いていて」
「それとね、ティア……」
言いたいことがあるのだろうが、シオン様は眉をひそめ口をつぐんでしまった。
「シオン様?」
「ごめん、なんでもないよ。傷は治癒魔法で塞いでもらったけど、体はまだ回復していないからしっかり休んでね」
何を言いかけたのだろう。大したことではないのかな。
それにしても、たしかにまだ体はつらい。
シオン様はなんともないようだし、女性も捕まり問題は解決されたみたいだから、私はもう少し休ませてもらおう。
「仕事も滞ってしまい申し訳ありませんが、そうさせていただきます」
そしてそれから、シオン様の甲斐甲斐しい看病が始まった。
出かけている時間も多いけれど、家にいる間はずっと私のそばにいてくれる。
「ティア、他に気持ち悪いところはない? 着替え手伝うよ」
「大丈夫です、着替えは自分でしますので」
毎日汗を拭いてくれるシオン様。体も拭くというので丁重にお断りした。
「食欲はある? 料理長がティアのために作ってくれたスープだよ。はい」
「ありがとうございます。でも、自分で食べられますので」
まるで、赤子のお世話をされているみたい。
そこまでしてもらわなくても大丈夫なのに。
数日間休養し、やっと体調が戻ってきた。
怪我は治っているのに体調がなかなか良くならなくて心配だったけれど、やっといつも通りの生活ができる。
しばらく仕事もお休みしてしまっていたので取り戻さないと。
気合いを入れて調合室へと向かった。
ユリウス様にお渡しする肥料も作らなければいけないし、集中しよう。
そう思いながら薬草を調合し、魔力を流し込んでいく。
けれど、様子がおかしい。
魔力を流し込んでも肥料が変化しない。
何度繰り返しても、なんの反応もない。
「どうして?」
私は胸騒ぎがして、急いで庭の畑へと向かった。
いつもは肥料の効果を確認するために成長魔法は使わないけれど、畑の野菜に魔法をかけてみた。
けれど……
「成長、しない……」
私、魔法が使えなくなってる?
どうして? 今までこんなことなかったのに。
怪我をしても風邪をひいても、魔法が使えなくなるなんてことは一度もなかった。
不安が全身を巡る。
魔法が使えなくなったら私、どうしたらいいの……。
魔法の使えない私なんて、なんの価値もないのに。
しばらく畑の前で立ち尽くしていると、シオン様の声がした。
振り返りシオン様の顔を見ると、涙が滲んでくる。
「ティア? どうしたの?」
「シオン様……私、私……」
魔法が使えないと言うと、シオン様は優しく手を握ってくれる。
それだけで、少し落ち着いた。
「病み上がりだから、調子がでないだけだよ。仕事のことはいいから、ゆっくりしよう」
けれどもそれから何日経っても、何度試しても、私の魔法が戻ることはなかった。
寝室だ。そうだ私、劇場で……刺されたんだ。
そっと腹部に触れる。傷口はしっかり塞がっていた。お腹が痛い、ということもない。ただ全身が熱くて痛い。経験したことのない痛みが体を巡る。
ゆっくりと体を起こし、窓の外を眺める。
空が赤く染まっている。今は夕方なんだ。私はどれくらい眠っていたのだろう。
自分でも意外なほど落ち着いているのは熱で頭が回っていないからだろうか。
「シオン様……」
あの時、女性はシオン様を狙っていた。シオン様は無事だろうか。
周りに人もたくさんいたし、女性は捕まっているだろう。
でも、シオン様は? あの後どうなったのだろう。
会いにいかないと。
ベッドから下りて部屋を出る。体は重いけれど、傷は塞がっているので動けないことはない。
壁を伝いながら、いつもこの時間いるであろう執務室へと向かう。
けれど、ドアをノックしても返事がない。部屋を覗いてみたけれど、そこにはいなかった。
屋敷中を探すけれど、リビングにも、客間にもいない。
どうしていないの?
最悪の事態が頭をよぎる。
シオン様にかぎってそんなことあるわけないよね。
毎日あれだけ稽古を積んでいるんだから。
でも、どこを探してもシオン様はいなかった。
私は中庭に出た。なんだか、広く感じる。無性に不安になり、足がすくむ。
そして、その場にへたりこんでしまった。
「ティア!」
その時、後ろからシオン様の声がした。
すぐに温かい腕に包み込まれる。
「どうしてこんなところにいるの? 体は大丈夫?」
「目が覚めて、シオン様を探そうと思って、でもどこにもいらっしゃらなくて、それで……」
「ごめん、出かけてたんだ。とりあえず、部屋に戻ろう」
私はシオン様に抱えられ、部屋へと戻った。
優しくベッドに寝かされ、そっと頭を撫でられる。
「まだ熱が高いから、ゆっくり寝てて」
「シオン様はお怪我はありませんか? 劇場ではあの後どうなったのでしょう」
「彼女はあの後すぐに捕らえられたよ。ティア、元気になったらゆっくり話そうと思ってたんだけどね」
「はい……」
シオン様は私の頭を撫でたまま真剣な表情をする。
「もう、僕を庇って無茶なことは絶対にしないで。ティアが刺されて生きた心地がしなかった」
「すみません……体が勝手に動いていて」
「それとね、ティア……」
言いたいことがあるのだろうが、シオン様は眉をひそめ口をつぐんでしまった。
「シオン様?」
「ごめん、なんでもないよ。傷は治癒魔法で塞いでもらったけど、体はまだ回復していないからしっかり休んでね」
何を言いかけたのだろう。大したことではないのかな。
それにしても、たしかにまだ体はつらい。
シオン様はなんともないようだし、女性も捕まり問題は解決されたみたいだから、私はもう少し休ませてもらおう。
「仕事も滞ってしまい申し訳ありませんが、そうさせていただきます」
そしてそれから、シオン様の甲斐甲斐しい看病が始まった。
出かけている時間も多いけれど、家にいる間はずっと私のそばにいてくれる。
「ティア、他に気持ち悪いところはない? 着替え手伝うよ」
「大丈夫です、着替えは自分でしますので」
毎日汗を拭いてくれるシオン様。体も拭くというので丁重にお断りした。
「食欲はある? 料理長がティアのために作ってくれたスープだよ。はい」
「ありがとうございます。でも、自分で食べられますので」
まるで、赤子のお世話をされているみたい。
そこまでしてもらわなくても大丈夫なのに。
数日間休養し、やっと体調が戻ってきた。
怪我は治っているのに体調がなかなか良くならなくて心配だったけれど、やっといつも通りの生活ができる。
しばらく仕事もお休みしてしまっていたので取り戻さないと。
気合いを入れて調合室へと向かった。
ユリウス様にお渡しする肥料も作らなければいけないし、集中しよう。
そう思いながら薬草を調合し、魔力を流し込んでいく。
けれど、様子がおかしい。
魔力を流し込んでも肥料が変化しない。
何度繰り返しても、なんの反応もない。
「どうして?」
私は胸騒ぎがして、急いで庭の畑へと向かった。
いつもは肥料の効果を確認するために成長魔法は使わないけれど、畑の野菜に魔法をかけてみた。
けれど……
「成長、しない……」
私、魔法が使えなくなってる?
どうして? 今までこんなことなかったのに。
怪我をしても風邪をひいても、魔法が使えなくなるなんてことは一度もなかった。
不安が全身を巡る。
魔法が使えなくなったら私、どうしたらいいの……。
魔法の使えない私なんて、なんの価値もないのに。
しばらく畑の前で立ち尽くしていると、シオン様の声がした。
振り返りシオン様の顔を見ると、涙が滲んでくる。
「ティア? どうしたの?」
「シオン様……私、私……」
魔法が使えないと言うと、シオン様は優しく手を握ってくれる。
それだけで、少し落ち着いた。
「病み上がりだから、調子がでないだけだよ。仕事のことはいいから、ゆっくりしよう」
けれどもそれから何日経っても、何度試しても、私の魔法が戻ることはなかった。