黒の花嫁/白の花嫁

第十七話 再会の姉妹

「たのもーーーーーーーー!!」

 秋葉の耳をつんざく馬鹿でかい声に、憂夜(ゆうや)は顰めっ面で両手で耳を塞いだ。

「……お前、声でかすぎだろ。うっせぇよ」

「だって、誰もいないんだから仕方ないじゃない」

「妙だよな……」

 記憶している白龍の屋敷とは掛け離れた雰囲気に、彼は眉根を寄せる。

 ここは見かけはギンギラギンの派手な屋敷ではあるが、主の性格を反映した穏やかな空気が流れいていた。
 華美な装飾に目を瞑れば、光河(こうが)ののほほんとした能天気な空間に支配されていたのだが。

 昔はよく土産の酒を片手に遊びに行ったものだった。
 白龍も側近の紫流(しりゅう)も、憂夜の鯨飲に最後まで付き合ってくれて、とても楽しい時間を過ごしたものだった。

「たのもーーーーーーーー!! 白龍様と、契約の解除に参りましたーーーーーーーー!!」

「たーーのーーもーーーーーー!!」

 そのとき、にわかに秋葉の懐から白銀(しろがね)がぴょいと出てきて、彼女の真似をして叫びはじめた。

「げっ! シロ! お前まで来たのかぁ〜?」

「うん! ぼくも白龍様のお屋敷に行きたかったんだもん」

「あのなぁ〜……。今回は遊びじゃねぇんだぞ?」

「知ってるよ! ぼくはアキの護衛なんだ! 主をお守りするのが、ぼくたちの仕事だって狐宵(こよい)が言ってたよ」

「はぁ……分かった。じゃあ、なにかあれば秋葉を連れて俺たちの屋敷まで逃げるんだ」

「ぼくは逃げないもん!」

「私も逃げないわよ」

 二人揃って口を尖らせて抗議をするが、憂夜は矢庭に真剣な表情になって、威圧するように彼らを見据えた。

「何やら穏やかでない、おかしな気を感じるんだ。……神でも(あやかし)でもない、嫌な気配がする」

 以前、秋葉に式神の大群が襲撃してきたことがある。あのあと憂夜が霊気を辿ると、ここ白龍の屋敷に行き着いた。
 それは人間の霊力だった。
 そして……この場所にいる人間は一人しかない。

 あの女――秋葉の妹は、霊力が消えた姉に対して随分と酷い真似をしてきたらしい。
 そんな異様に蔑んでいた姉が、己と同じく龍神の花嫁になったのだ。彼女の怒りは相当なものだろう。

 (あれ)が今も姉の命を狙っているのは間違いない。
 これは、単なる嫌がらせではない――本物の『殺意』だ。

「だから、お前たちは十二分に気を付けるように。命の危機を察したら迷わず逃げろ」

「分かったわ」

「うん……」

 秋葉も白銀も、憂夜のひりつく緊張感を感じ取った。理由は分からないが、あまり事態がよろしくないのは確かだ。

「さて。返事がねぇから勝手に入るか。白龍(あいつ)の部屋の場所は、俺が知ってるから――」

 突如、憂夜は口を閉ざす。
 尋常ではない不快感に、全身の毛が逆立った。

 これは、『(じゃ)』の気配だ。
 しかも、かなり濃い。

「どうしたの? 顔が真っ青よ?」

 彼の急激な変化を察知して、秋葉は心配そうに顔を覗き込む。

「やべぇ……」

 彼は滴り落ちる汗の粒を拭う。

「白龍が不味いかもしれない!」


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