黒の花嫁/白の花嫁

第十八話 覚醒

 春菜が放った影は数十本の槍となって、物凄い速さで秋葉に突進していく。
 秋葉はあまりの速度に目を見張るだけで、動けない。

「秋葉っ!」

 憂夜(ゆうや)が秋葉の前に駆け込む。

黒鱗(こくりん)!」

 黒光りする無数の龍の鱗が顕現し、目の前に障壁を構築する。
 同時に、数々の黒い槍が激しく激突した。

「ぐっ……!」

 それは真正面からぶつかり、勢いを増して雪崩のように押し寄せて来る。憂夜はさらに強い神力(しんりょく)を放って弾き返した。

(なんだ、この力は……!?)

 憂夜は驚きを隠せず、目を見開いて春菜を見やった。

 やはり、春菜の力は『(じゃ)』で間違いない。
 それは、闇より深い奥底にある『無』の世界だ。ゆえに闇を司る黒龍は、他の神々よりも若干それに耐性がある。

 だが春菜の放った影の力は、闇とは正反対の光の気を感じる。
 それも、黒龍と同等の大きさの……。

「お前……まさか……」

 憂夜はひゅっと息を呑んだ。目の前で、信じ難いことが起こっている。この女の欲望は、どこまでも計り知れないらしい。

光河(こうが)様の……」

 そのとき、倒れていた紫流(しりゅう)が少しだけ顔を上げて呟いた。

「こ、光河様の、宝玉が……」

 憂夜ははっと弾かれるように光河を見た。彼は今も影に肉体を絡み取られて、苦しみに喘いでいる。纏う神力は弱々しく、ほとんどを邪で覆われていた。

「あら、これのこと?」

 春菜は微笑みながら白龍の宝玉を取り出した。普段は真白で真珠の如く七色に光るそれは、今では禍々しい黒色に侵食されていた。

「素敵でしょう。白龍様にいただいたのよ。あとで黒龍様の宝玉もくださいましね?」

「やらねぇよ」

「あら、意外に照れ屋さんなのね」

「ぶち殺すぞ、てめぇ」



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