黒の花嫁/白の花嫁
第三話 龍神の花嫁
月を照らし出す清酒の表層に、小さな紅葉がひらりと舞い落ちた。
彼は少しのあいだだけその雅な趣きを楽しんだあと、ぐいと猪口の中身一気に煽った。
「そういや、明日じゃねぇか」
可愛らしい紅葉を眺めていたら、不意に思い出した。明日は、あいつの祝言の日だ。
……あの、とんてもない霊力を持つ勝ち気な少女と、ついに婚姻を結ぶのだ。
彼は微かに瞳を伏せてから、何かを断ち切るように素早く顔を上げて、ニヤリと口の両端を吊り上げた。
「同じ種族のよしみだ。いっちょ派手に祝ってやるか」
◆
秋晴れの青い空と、神聖さを感じる澄んだ空気。まさに祝言に相応しい天気だった。
四ツ折家は早朝から大忙しだ。
龍神の花嫁の支度。それは家門の誉であり、とてつもなく光栄なことだった。
何年も前から準備をしてきた絹の白無垢が、花嫁の前に広げられる。繊細な生地が織りなす見事な光沢ととろみに、春菜も冬子もうっとりとした顔で眺めていた。
神と契約した娘は、十七歳になったら嫁入りすることになっている。龍神もそれを待ち望んでいたように、今朝から春菜の額の印は淡く光を放ち続けていた。
龍神様が呼んでいるのを感じる。春菜の心は幸せで満たされていた。
彼は少しのあいだだけその雅な趣きを楽しんだあと、ぐいと猪口の中身一気に煽った。
「そういや、明日じゃねぇか」
可愛らしい紅葉を眺めていたら、不意に思い出した。明日は、あいつの祝言の日だ。
……あの、とんてもない霊力を持つ勝ち気な少女と、ついに婚姻を結ぶのだ。
彼は微かに瞳を伏せてから、何かを断ち切るように素早く顔を上げて、ニヤリと口の両端を吊り上げた。
「同じ種族のよしみだ。いっちょ派手に祝ってやるか」
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秋晴れの青い空と、神聖さを感じる澄んだ空気。まさに祝言に相応しい天気だった。
四ツ折家は早朝から大忙しだ。
龍神の花嫁の支度。それは家門の誉であり、とてつもなく光栄なことだった。
何年も前から準備をしてきた絹の白無垢が、花嫁の前に広げられる。繊細な生地が織りなす見事な光沢ととろみに、春菜も冬子もうっとりとした顔で眺めていた。
神と契約した娘は、十七歳になったら嫁入りすることになっている。龍神もそれを待ち望んでいたように、今朝から春菜の額の印は淡く光を放ち続けていた。
龍神様が呼んでいるのを感じる。春菜の心は幸せで満たされていた。