黒の花嫁/白の花嫁

第三話 龍神の花嫁

 月を照らし出す清酒の表層に、小さな紅葉がひらりと舞い落ちた。
 彼は少しのあいだだけその雅な趣きを楽しんだあと、ぐいと猪口(ちょこ)の中身一気に煽った。

「そういや、明日じゃねぇか」

 可愛らしい紅葉を眺めていたら、不意に思い出した。明日は、あいつ(・・・)の祝言の日だ。
 ……あの、とんてもない霊力を持つ勝ち気な少女と、ついに婚姻を結ぶのだ。

 彼は微かに瞳を伏せてから、何かを断ち切るように素早く顔を上げて、ニヤリと口の両端を吊り上げた。

「同じ種族のよしみだ。いっちょ派手に祝ってやるか」







 秋晴れの青い空と、神聖さを感じる澄んだ空気。まさに祝言に相応しい天気だった。

 四ツ折(よつおり)家は早朝から大忙しだ。
 龍神の花嫁の支度。それは家門の誉であり、とてつもなく光栄なことだった。

 何年も前から準備をしてきた絹の白無垢が、花嫁の前に広げられる。繊細な生地が織りなす見事な光沢ととろみに、春菜も冬子もうっとりとした顔で眺めていた。
 
 神と契約した娘は、十七歳になったら嫁入りすることになっている。龍神もそれを待ち望んでいたように、今朝から春菜の額の印は淡く光を放ち続けていた。
 龍神様が呼んでいるのを感じる。春菜の心は幸せで満たされていた。



< 11 / 124 >

この作品をシェア

pagetop