黒の花嫁/白の花嫁
第四話 嫁入り
「余りもの同士、仲良くやろうや」
「…………」
秋葉は突然の求婚に二の句が継げずに、ただ目を瞬かせながら憂夜を見る。
春菜も光河も、両親も、まだ状況が理解できないようで、不可思議な沈黙が流れていた。
「えっと…………」
少しして、乱れる心拍数をやっと整えた秋葉が大声で尋ねた。
「本気!?」
まだ頭の中がごちゃごちゃしていて、何から聞けば良いか分からない。なので、ひとまず一番の疑問をぶつけることにしたのだ。
「はっはっは〜。いくら俺でも、ふざけて求婚をするわけねぇよ」
憂夜はあっけらかんと答える。
「でっ、でも……」
秋葉は口ごもって、困り顔で彼を見た。
「ん? どうした?」
「見ての通り、私は霊力を持っていないわ。神様にこんなことを言うのは恐れ多いけど、私があなたに与えられるものなんて……なにもないの」
急激に心臓がきゅっと縮こまって、苦しくなって思わず目を伏せた。再び悲しみが胸に押し寄せてくる。
過去の幼い自分は、千年に一人という莫大な霊力を持っていたので、龍神様の花嫁に選ばれた。
でも今の自分は、なにも持っていない。これでは神様の妻になるどころか、霊力者の一族としても役立たずだ。
「俺がお前を気に入ったんだ。お前の『魂』を気に入った。霊力なんざ関係ねぇだろ」
しかし憂夜は、秋葉の悩みなどなんてことないようにケラケラと笑ってみせた。
「だって、霊力がないと――」
「おいおい、さっきまでの勢いはどうした〜? 蔵をバコーンと拳で破壊してたじゃねぇか」
「はぁっ!? 私、そんなことやってないわよ!」
「はっはっは。嘘こけ」
「嘘じゃないわ! 外に出るために……ちょ〜っと……だけ、扉をこじ開けようとしていただけよ」
「やっぱ破壊じゃねぇかよ」
「ち、が、うっ!」
秋葉は顔を真っ赤にさせて叫んだ。
怒りに任せて憂夜の胸を両拳で殴ろうとするが、
「おっと」
彼はいとも簡単に彼女を受け止めた。
他の女性より少し上背がある秋葉の身体が、すっぽり入る大きな腕。労るような仕草だけど、男らしく力強い感覚に彼女はどきりと脈が跳ねた。
包みこまれるように彼の胸の中に入る。顔を上げると、整った彼の瞳が近くて、上昇した脈はどんどん速くなった。
憂夜はさっきとは打って変わって真剣な表情になって、まっすぐに秋葉を見た。
「で、秋葉はどうしたい?」
「私は……」
一度視線が合うと、黄昏色の瞳に吸い込まれそうになる。光によって橙から藍色に変化するそれは、全てを見通しているような気がして。
この瞳に映るときは、素直になりたいと思わせる不思議なものがあった。
突然の求婚に、まだ気持ちが追い付いていないのはたしかだ。
黒龍自身のことも全然知らないし、霊力皆無の自分なんかが彼の妻になって良いのかも分からない。
でも。
彼は自分を必要としてくれた。それが純粋に嬉しかった。
もしかしたら、こんな自分でも彼の役に立てるかもしれない。
……ううん、彼の役に立ちたい。
「…………」
秋葉は突然の求婚に二の句が継げずに、ただ目を瞬かせながら憂夜を見る。
春菜も光河も、両親も、まだ状況が理解できないようで、不可思議な沈黙が流れていた。
「えっと…………」
少しして、乱れる心拍数をやっと整えた秋葉が大声で尋ねた。
「本気!?」
まだ頭の中がごちゃごちゃしていて、何から聞けば良いか分からない。なので、ひとまず一番の疑問をぶつけることにしたのだ。
「はっはっは〜。いくら俺でも、ふざけて求婚をするわけねぇよ」
憂夜はあっけらかんと答える。
「でっ、でも……」
秋葉は口ごもって、困り顔で彼を見た。
「ん? どうした?」
「見ての通り、私は霊力を持っていないわ。神様にこんなことを言うのは恐れ多いけど、私があなたに与えられるものなんて……なにもないの」
急激に心臓がきゅっと縮こまって、苦しくなって思わず目を伏せた。再び悲しみが胸に押し寄せてくる。
過去の幼い自分は、千年に一人という莫大な霊力を持っていたので、龍神様の花嫁に選ばれた。
でも今の自分は、なにも持っていない。これでは神様の妻になるどころか、霊力者の一族としても役立たずだ。
「俺がお前を気に入ったんだ。お前の『魂』を気に入った。霊力なんざ関係ねぇだろ」
しかし憂夜は、秋葉の悩みなどなんてことないようにケラケラと笑ってみせた。
「だって、霊力がないと――」
「おいおい、さっきまでの勢いはどうした〜? 蔵をバコーンと拳で破壊してたじゃねぇか」
「はぁっ!? 私、そんなことやってないわよ!」
「はっはっは。嘘こけ」
「嘘じゃないわ! 外に出るために……ちょ〜っと……だけ、扉をこじ開けようとしていただけよ」
「やっぱ破壊じゃねぇかよ」
「ち、が、うっ!」
秋葉は顔を真っ赤にさせて叫んだ。
怒りに任せて憂夜の胸を両拳で殴ろうとするが、
「おっと」
彼はいとも簡単に彼女を受け止めた。
他の女性より少し上背がある秋葉の身体が、すっぽり入る大きな腕。労るような仕草だけど、男らしく力強い感覚に彼女はどきりと脈が跳ねた。
包みこまれるように彼の胸の中に入る。顔を上げると、整った彼の瞳が近くて、上昇した脈はどんどん速くなった。
憂夜はさっきとは打って変わって真剣な表情になって、まっすぐに秋葉を見た。
「で、秋葉はどうしたい?」
「私は……」
一度視線が合うと、黄昏色の瞳に吸い込まれそうになる。光によって橙から藍色に変化するそれは、全てを見通しているような気がして。
この瞳に映るときは、素直になりたいと思わせる不思議なものがあった。
突然の求婚に、まだ気持ちが追い付いていないのはたしかだ。
黒龍自身のことも全然知らないし、霊力皆無の自分なんかが彼の妻になって良いのかも分からない。
でも。
彼は自分を必要としてくれた。それが純粋に嬉しかった。
もしかしたら、こんな自分でも彼の役に立てるかもしれない。
……ううん、彼の役に立ちたい。