黒の花嫁/白の花嫁

第十二話 花嫁の務め

「ねぇ、憂夜(ゆうや)は?」

 いつもなら庭で盆栽の手入れをしている時間なのに、全く姿を見せていなくて秋葉は不思議に思った。
 二人で皇都(こうと)へ遊びに行って以来、どこかに出かけるときは必ず声をかけてくれるのに、今日は一言もない。

「あぁ〜……」

 瑞雪(ずいせつ)は茜色の目を彷徨わせながら、次の言葉を考える。

()()って、言っていいんだっけ? ご主人様の奥様だし、喋っても大丈夫だよね〜? 口止めされてないし。
 ……いや、言えって聞いてないから言うなってこと?)

「どうしたの?」

 落ち着かない態度の瑞雪に、秋葉は目を眇めた。彼女の中にある『勘』という実態のないものがぴくりと反応する。なんだか、怪しい。

「ねぇ、何か隠してる?」と、秋葉は少しだけ強い口調で尋ねた。

「い、いえ……。私は……そんな――」

 瑞雪はしどろもどろに答える。目は泳ぎまくって、胸に手をあてて短く息を吐いて……完全に挙動不審な怪しい(ひと)だった。

「黒龍様はね、『黒龍の(ほこら)』に行っているよ!」

「あっ! シロ!」

 その時、秋葉の背中からぴょこんと白銀(しろがね)が顔を出して、元気よく言った。
 瑞雪は「あちゃ〜」っと青ざめた顔を両手で覆う。

「黒龍の祠?」と、秋葉は首を傾げる。

「うん! 黒龍の祠はね、黒龍様の力をぶわーって出すところなんだ!」

 爛々と瞳が輝かせて、ご主人様を自慢するみたいに弾む声で答える白銀。その横で瑞雪は、まだおよおよと目を泳がせていた。

「どういうこと?」

 秋葉は敢えて瑞雪に尋ねてみる。これは絶対になにかを隠している。彼女は幸いにも嘘がつけない性格みたいだし、ここは吐かせてしまえ!

 瑞雪は少しの間だけ戸惑う素振りをみせたが、

「実は、龍神の務めとして――……」


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