鬼課長は、ひみつの婚約者
第2話 揺れる心
五月。桜並木の淡いピンク色に代わり、新緑が眩しい季節になった。
新年度が始まり、私の部署では、新規ブランドの立ち上げに向けたプロジェクトが発足した。
そのチームメンバーに、課長の瑛斗と私、そして私が憧れている先輩、佐伯航さんの名前があった。
「良かったね、莉子ちゃん」
隣の席の真由が、声をかけてくれた。けれど、私は素直に喜べない。
同じチームになったら、仕事とはいえ瑛斗と一緒に過ごす時間が増える。そうなると、周囲の目が気になって仕方ない。
会社では私を「千堂」と呼び、まるで存在しないかのように通り過ぎていく彼の冷たい手。
家で私の頭を優しく撫でてくれるその手とのギャップに、心がざわつく。
「千堂さん。このプロジェクト、俺も参加するんだ。よろしくね」
佐伯さんが、優しく微笑みながら話しかけてくれた。