すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~

1、プロローグ

 私は家族にも、婚約者にも、捨てられた。
 けれど、今はとっても幸せです!


  ◇


 オルナード国の王宮。
 きらびやかなシャンデリアの光が反射して輝くパーティ会場にて。
 私の目の前になつかしい面々が揃った。

 口を開けたまま硬直したお父様、驚愕の表情で戸惑う元婚約者様、そして私の右手を壊した従妹のセリス。

 貴族たちの視線が集まる中、彼らはこんな形で私と再会するなんて思ってもみなかっただろう。
 けれど、こうするしかなかった。

 だって、この人たち、とてもしつこいんだもの。


 自分たちが私を捨てたくせに、やっぱり必要だと言い出して、都合よく私を連れ戻そうといろいろ画策したようだ。
 もううんざりなので、こうして全員の前で宣言することにしたの。


「私はもう、自分の人生を歩んでいます。どうか放っておいてください」


 口角を軽く上げ、やわらかい微笑みを浮かべて見せる。
 3人の視線が止まり、時間が一瞬止まったかのように硬直した。

 胸の奥で長年澱んでいた怒りと屈辱が、ゆっくりとほどけていく。
 静まり返った空気の中、沈黙を破ったのは低く穏やかな声だった。


「ということだ。これ以上、レイラに関わるというなら、俺がまず相手をしよう」


 視線を上げると、そこにはノルディーン公爵がいた。
 私の肩に手を置き、凛とした表情で、私を守るように立ってくれている。

 彼は私の才能を見出し、絶望の夜から救ってくれた人。
 優しい眼差しと確かな力強さに、自然と背筋が伸びる。


 すべては、あの日の夜から始まったのだ――


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