すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
5、あなたと出会った夜
馬車は男爵領へ向かう途中、日が傾き始めた森の小道で停車した。
どうやらここで一晩を過ごすらしい。
御者は馬車の扉に顔を覗かせることもなく、足早に宿の建物の中へ消えていく。
重い気持ちを抱えながら馬車を降り、建物の前まで足を進めると、御者の低い声と誰かの男の声がふと聞こえた。
「手筈は整っているか?」
「ああ。今夜発つ荷馬車がある」
「しかし、令嬢もまさか自分が異国に売り飛ばされるとは思ってもいないだろうな」
異国に売り飛ばされる――?
「仕事ができなくなったから娘を売り飛ばすなんざ、伯爵もなかなか酷ぇことするよな」
「仕方ないんじゃないか。実の娘じゃないんだろ?」
「ああ。どうやら死んだ妻の恋人の子らしい。伯爵との縁談で無理やり別れさせられた相手らしいぞ」
「まあ、俺らの知ったことじゃねえ。金さえもらえればいいんだ」
彼らの言葉が次々と私の頭に打ちつけられ、心臓は凍りつくように震えた。
私は父の子ではなかったの?
だから、父はあんなに私に冷たかったの?
どうやらここで一晩を過ごすらしい。
御者は馬車の扉に顔を覗かせることもなく、足早に宿の建物の中へ消えていく。
重い気持ちを抱えながら馬車を降り、建物の前まで足を進めると、御者の低い声と誰かの男の声がふと聞こえた。
「手筈は整っているか?」
「ああ。今夜発つ荷馬車がある」
「しかし、令嬢もまさか自分が異国に売り飛ばされるとは思ってもいないだろうな」
異国に売り飛ばされる――?
「仕事ができなくなったから娘を売り飛ばすなんざ、伯爵もなかなか酷ぇことするよな」
「仕方ないんじゃないか。実の娘じゃないんだろ?」
「ああ。どうやら死んだ妻の恋人の子らしい。伯爵との縁談で無理やり別れさせられた相手らしいぞ」
「まあ、俺らの知ったことじゃねえ。金さえもらえればいいんだ」
彼らの言葉が次々と私の頭に打ちつけられ、心臓は凍りつくように震えた。
私は父の子ではなかったの?
だから、父はあんなに私に冷たかったの?