彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
宗田ホールディングスのオフィスに、その日、一人の派遣社員がやってきた。

「本日よりお世話になります、茅野楓(ちの・かえで)と申します」

深々と頭を下げる彼女に、社員たちの好奇と、そして侮蔑が入り混じった視線が突き刺さる。

サイズの合っていない地味なスーツに身を包み、分厚い眼鏡の奥の瞳は自信なさげに揺れていた。

何より、そのふくよかな体型は、エリートが集うこのオフィスでは異質な存在だった。

「まあ、使えなさそう」

「人手不足もここまでくるとねぇ」

ひそひそと交わされる声が、楓の耳にも届く。
だが、彼女は何も聞こえないかのように、ただ静かに微笑むだけだった。

誰も知らない。
この冴えない派遣社員が、海外の名門大学を首席で卒業し、数か国語を自在に操る頭脳を持ち、そして巨大企業のCEOという裏の顔を持つことを。

そして、愛する妹を殺した犯人を見つけ出し、地獄の底へ突き落とすという、燃えるような復讐心を胸に秘めていることも。

楓の潜入は、順調に進むかに見えた。
経理の補助として、誰にも注目されずに情報を集める日々。
しかし、その計画は一人の男によって、大きく狂わされることになる。

「君、大丈夫か?」

給湯室で資料の束を床にぶちまけてしまった時、拾うのを手伝ってくれたのは、副社長の宗田秋太(そうだ・あきた)だった。

整った顔立ちに、社員たちの羨望を一身に集める若き御御曹司。
住む世界が違う、と誰もが思う相手だった。

「す、すみません…大丈夫です…」

はにかんだ笑みを浮かべて、楓はそのまま去っていった。
去り行く楓を目で追う秋太。

誰もがさえない、使えないと言って馬鹿にしている楓。
だが、秋太にはそうは思えなかった。

社員達の間では「使えないデブ」と言われているようだが。
間近で見た顔立ちは、とても整っていて魅力的な目をしている。

秋太の胸がキュンとなった。
「…僕は…彼女をずっと想い続けてきた…」
そう呟いた秋太。

そんな秋太を遠くで見ている黒い影がいる…。

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