彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…

徹夜の調査の末、京子がすべての証拠を掴んだその朝。
秋太は、いつもより早く出社していた。胸騒ぎがしたのだ。これから、何かが大きく動く。そんな予感があった。

顧問弁護士室の前を通りかかった時、中から微かに声が聞こえた。それは、流暢なドイツ語だった。秋太は、思わず足を止める。ドアの隙間から見えたのは、電話で誰かと話す京子の横顔だった。


その話し方、専門用語を交えた厳しい口調、そして時折見せる鋭い眼光――それは、かつて宗田ホールディングスの危機を救った、茅野楓の姿そのものだった。

『たまたま知っている単語が通じたみたいです』

さえない派遣社員を演じていた彼女が、はにかみながら言った言葉が嘘だったのだと、秋太は今、はっきりと理解した。

彼の脳裏に、過去の記憶が鮮やかにフラッシュバックする。
楓が姿を消してから、秋太はあらゆる手段を使って彼女の過去を調べた。だが、その経歴は巧妙に闇に包まれており、調査は難航を極めた。
諦めかけていたある日、海外の古い経済誌のデジタルアーカイブで、一つの記事を見つけたのだ。『シリコンバレーを震撼させた若き天才CEO』として紹介されていたのは、まだふくよかだった頃の、しかし自信に満ちた表情の「Kaede Chino」だった。
その記事には、先日契約を結んだアメリカの投資会社社長、ジェームス・ミラーが「彼女はハーバード始まって以来の逸材だった」と語り、二人が学生時代に並んで写る写真も掲載されていた。

すべてのピースが、今、この瞬間に繋がった。
記事はこう締めくくられていた。「しかし、彼女は絶頂期に忽然と姿を消した。その理由は、今も謎に包まれている」。
CEOの座を捨ててまで、彼女が宗田ホールディングスに潜入した理由。それは、妹の死の真相を探るため。そして、すべてを失った今、別人となって戻ってきたのは、復讐を完遂するため。

秋太の中で、京子が楓であるという確信は、揺るぎないものに変わった。
彼は、彼女が背負ってきた7年間の孤独と憎しみの重さに、胸が張り裂けそうになった。そして同時に、彼女の復讐を最後まで見届け、今度こそこの手で守り抜くことを、改めて心に誓った。
秋太は静かにその場を離れ、これから始まる断罪の舞台へと向かった。


そして、運命の時が来た。
重役用の会議室に、秋太、経理部長の沢富、そして内藤麻友が呼び出された。
「経理上の緊急の確認事項です」
京子の呼び出しに、麻友は得意げな表情で現れた。自分がいかに会社に必要とされているかを見せつける良い機会だと思ったのだろう。秋太は、そんな彼女の愚かさを冷たい瞳で見つめていた。
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