彼と妹と私の恋物語…結婚２週間で離婚した姉が再婚できない理由…

５

数日後、秋太は内線で佐藤を副社長室に呼びつけた。
入室してきた佐藤に、秋太は椅子に深く腰掛けたまま、冷たい視線を向ける。
「佐藤部長。最近、営業部の成績が著しく落ちているようだが、何か理由は？」
その声は、普段の彼からは想像もできないほど低く、威圧的だった。

「…申し訳ありません。ここのところ、いくつかの大型契約を取り逃がしているのは事実です」
佐藤は背筋を伸ばし、冷静に答えた。
「どうも、海外の取引先との最終交渉で、うまくいかないケースが増えているようだな。部長、君の語学力は問題ないのか？」
その問いは、明らかに個人的な感情を含んだ、意地の悪いものだった。

「はい。私も海外への留学経験がありますので、ビジネス英語には自信があります」
毅然と答える佐藤に、秋太はフッと鼻で笑った。
「英語だけじゃ、もう通用しない時代だと知っているか？」
その言葉に、佐藤は驚いて目を見開いた。
「我が社は、世界中を相手にビジネスをしている。英語圏の人間だけが取引相手じゃない。だから、部長クラスなら数か国語は話せて当然だろう？」
嫌味と嫉妬が滲み出る物言いに、佐藤はぐっと唇を噛んだ。

「…あの。失礼ですが、副社長ご自身は…？」
反撃するように問い返した佐藤に、秋太は待ってましたとばかりに言い放った。
「僕のことか？僕は、英語、中国語、イタリア語、フランス語ならビジネスレベルで話せる。あとは日常会話程度だがね」
その圧倒的なスペックに、佐藤は言葉を失う。
「そ、そんなに…！では、もしよろしければ、副社長に商談へのご同席をお願いすることは…」
「断る」
秋太は、佐藤の言葉を冷たく遮った。
「僕は営業部の人間ではない。君たちには、君たちの仕事があるはずだ。自分の部署の問題は、自分たちで解決したまえ」

その正論だが冷酷な突き放しに、佐藤はもはや何も言い返すことができなかった。
彼はただ、「失礼します」と深く頭を下げ、屈辱感を滲ませながら副社長室を後にするしかなかった。
一人残された部屋で、秋太は忌々しげに舌打ちをする。こんな幼稚な方法でしか、自分の苛立ちを表現できない自分自身に、彼は嫌気がさしていた。