彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…

秋太の本心を知った兄は、翔太にだけそのことを話した。
絶対に誰にも言わないでくれと。
秋太の本誌を知った翔太は見守ることしかできなかったが、学校行事にはこっそり様子を見に行っていた。
運動会も遠くで見て秋太の成長を喜ばしく思っていた。

「…私だって…秋太が家に帰ってきたこと、知っていたわ。追いかけようと思って、外に出たけど。もう、あの子はいなくて。…この足では追いつけないって、何度も悔やんだ…。母として失格なのは、初めからわかっていました。…だから…秋太を産むことだって、かなり迷った…」
ギュッとスカートを握り締めたトワ。
「…あなたに気づかれていないから、黙って中絶しようって考えたわ。…でも…その時、あの子が…冬太(とうた)が私に言ったの。…赤ちゃん、ちゃんと産んでね。僕も協力するからって」
「冬太が?」
「…誰にも言ってないのに、どうしてあの子がそんなこと言うのか分からなかったけど。…そのあとに、桃子(とうこ)まで言ったの。「赤ちゃん、お母さんにいたくてずっと待っていたんだよ」って…。だから…産んでげようって思えたの。…秋太が産まれたときは。本当にかわいくて、産んでよかったって思ったの。…でも…突然拒絶されて、どうしたらいいか分からなくて。…なんとか、秋太に近づこうとしていたら…養子に行くって言いだしたから…」

そこはで話したトワの頬には、涙が伝っていた。
その涙は、悲しみと悔しさ、そして公開が入り交ざっていた。

「秋太が時々、家に戻ってきたとき。真っ先に駆け出して外に出たわ…でも…追いつけなくて…。こんな体だからダメなんだて、ずっと自分を責めていたわ…」
「そうだったのか。…すまなかったな、そんな気持ちに気づかなくて。…確かに、冬太と桃子を産むときも、かなり迷っていたな。きっと、周りに迷惑をかけるから子供は産まないほうがいいって。一緒に協力するって約束したのに、私もつい、忙しくて何もできなかった。その為、トワに一人で背負わせてしまった…本当にすまなかった…」
 
 翔太はそっとトワを抱きしめた。

「…本当は私…楓さんが羨ましかった…。母親なのに拒絶されている私より、ずっと秋太の近くにいるんだもの。…結婚のあいさつに来た時も。確かに、楓さんは太っているけど。顔立ちはとても良くて、きれいな人を連れてきてくれたんだって嬉しかったのに。つい…憎まれることしか言えなくて…」
「もういい。自分の本当の気持ちに気づけたなら、きっと分かり合える。楓さんは、トワに似ているところがあるからね」
「え?」
「凛とした強さは、そっくりだよ。楓さんも、つらい過去を背負っている。妹さんは、転落事故で亡くなっているらしい。それできっと、彼女は帰国してきたんだと思う」
「…そんなことが…」
「少し時間はかかるかもしれない。でもきっと、歩み寄れるから。焦らないでいこう」
トワはそっと頷いた。

そのころ。
楓は荷物をまとめて、柊と一緒に鏡家に戻っていた。

事情を聴いた叔父は暖かく柊と楓を受け入れた。

秋太はしばらくホテルに泊まると言って、家を出た。

同居を始めてまだそれほど経過していないが、バラバラになってしまった。

一人になり秋太は考えていた。
実家に帰ったことが間違っていたのではないかと。
まずは、楓と柊と3人で暮らしていくのがよかったのではないかと。

楓を鏡家に送っていったとき、秋太も一緒に泊まればいいと言われたが、今日は別々でいたほうがいいと判断して断った。

ホテルの窓から見える星空を見上げて。
秋太は遠い昔を思い出した。

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